【今月の旅写真】歴史と文化が香る自然豊かな街でお花見スポットを探して ~目白・下落合~

東京都

2023.03.10

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【今月の旅写真】歴史と文化が香る自然豊かな街でお花見スポットを探して ~目白・下落合~

梅が咲き、日差しのまぶしさを感じ始めると、お出かけシーズンの到来です。今回は、歴史の面影を残し、文化の香りを感じる街、目白界隈(新宿区下落合一帯)を散策してきました。東京では間もなく開花を迎える桜をじっくりと鑑賞できる3つのお花見スポットもご紹介いたします。

Text&Photo:こばやしかをる
撮影機材: RICOH GRⅢ

目次

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目白ってどんなところ

目白通りと裏道に点在する歴史

日本近代美術史に残る二大洋画家のアトリエ訪問

中村彝(つね)アトリエ記念館

佐伯祐三アトリエ記念館

お花見スポット① おとめ山(御留山)公園

お花見スポット② せせらぎの里公苑と神田川

お花見スポット③ 新宿下落合氷川神社

おわりに

目白ってどんなところ

目白って「なんとなく知っているけど、訪れたことはない」という方も多いのではないでしょうか。目白は、東京都豊島区と新宿区の境に位置し、池袋や高田馬場に歩いて行ける距離にあります。駅前には目白通りが走り、右手に学習院大学を代表とする学校施設が集まり、左手(西側)に歩けば目白銀座商店街が続きます。こちらは、路地に入れば、洗練された格式高い家屋が並ぶ山の手を代表する高級住宅地です。都心とは思えない静けさと緑豊かな自然を感じられます。

特に新宿区下落合一帯は、江戸時代、大名や旗本など、位の高い武士の屋敷が立ち並び、明治時代に入ると有力者の邸宅が集まる高級住宅地になりました。大正~昭和初期には、「目白文化村」という住宅街が作られ、西洋風の戸建てが作られたことで文化人や学者も多く移り住んだエリアです。

新宿区下落合一帯にかなりの密度で文化人が居を構えていたことが分かります

新宿区下落合一帯にかなりの密度で文化人が居を構えていたことが分かります

目白通りと裏道に点在する歴史

駅から真っ直ぐに伸びる目白銀座商店街を歩くと、小さな間口のお店が並んでいます。美容室やギャラリー、隠れ家風カフェ、有名パティスリーなどが点在。ショーウィンドウには他の街ではあまり目にすることのない、アンティークな置物や現地で買い付けた食材のパッケージなど、品の良いディスプレイも見られ、眺めているだけでも心が弾みます。気になるお店に出合ったら立ち寄って買い物をするのも楽しみの一つです。

小さなパティスリー「カオリ ヒロネ(Kaori Hirone)」のアンティークなディスプレイ

イタリア食材とパスタの専門店「PASTIFICIO DEL GATTO」(パスティフィッチョ・デル・ガット)

以前紹介した、チョコレート専門店「99 ROUTE DU CHOCOLAT」目白店

目白通りを歩いていると右手には、「目白聖公会」が見えてきます。ロマネスク様式の聖堂は、昭和4(1929)年に建立されました。また、目白通り左手を一本裏に入れば珍しい光景にも出合えます。道路の真ん中にこつ然と現れる、「旧近衛邸のケヤキ」。明治時代の政治家、近衛篤麿(このえ あつまろ)の邸宅の玄関先にあったケヤキ の木だけがこのような形で残されているのだとか。

戦災からも免れた「目白聖公会」は、小さくかわいらしい建物

「旧近衛邸のケヤキ」は地域文化財となっています

さらに、この道の突き当りには、東京都選定歴史的建造物に選定されている日立目白クラブがあります。このように随所に歴史を感じることができるのが、目白・下落合エリアです。

日本近代美術史に残る二大洋画家のアトリエ訪問

かつて多くの文化人が住んでいた目白には、大正~昭和の初めにかけて活動していた洋画家、中村彝(つね)と、佐伯祐三の二大洋画家が居を構えた歴史があります。また、二人のアトリエを保存・復元した記念館の中で約100年前の当時を振り返る資料に触れることで、画家たちの生活や社会的背景まで感じ取ることができるでしょう。

中村彝(つね)アトリエ記念館

大正5(1916)年 に建てられたアトリエ付き住宅跡。改修・復元されたアトリエに実際に入ることができます。

住宅地の中に佇む「中村彝(つね)アトリエ記念館」

住宅地の中に佇む「中村彝(つね)アトリエ記念館」

アトリエの中では、彝の生涯や画業をパネル解説し、代表的な作品は高精細写真で展示されています。日本の近代美術史に残る肖像画の名作で、重要文化財である、「エロシェンコ氏の像」が描かれた創作活動の場をリアルに感じられます。また、アトリエに射す北側の光は、写真を撮る人にとって光の読み取り方の勉強にもなるので、ぜひ訪れてほしい場所です。

撮影ポイント:建物の撮影は、柱、ドアや窓枠、壁など画面が傾かないよう、カメラのグリッドラインを確認し水平・垂直に細心の注意を払います。屋外と室内の光の向き、影の陰影にも注目し、被写体を見つめる光を感じてみましょう。

庭先から建物を撮ると順光です。レンガ色の屋根が青空に映えます

アトリエ内の光は、天窓のすりガラスで拡散されるフラットで柔らかい光です

水差しの陰影に注目。薄暗いようで立体感を表現できる光であることが分かります

室内から庭を向くと逆光になります。庭先の様子が写る露出で撮影します

◆新宿区立中村彝アトリエ記念館
住所:東京都新宿区下落合3-5-7
電話:03-5906-5671
開館時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
料金:入場無料
休館日:月曜日(祝休日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)

佐伯祐三アトリエ記念館

中村彝アトリエ記念館から徒歩15分ほどの場所にある「佐伯祐三アトリエ記念館」は、パリの街角を数多く描いた洋画家・佐伯祐三が、大正10 (1921)年に建てたアトリエ付き住宅の跡です。

アトリエ部分のみが残された「佐伯祐三アトリエ記念館」

アトリエ部分のみが残された「佐伯祐三アトリエ記念館」

パリでの活動が有名な彼ですが、国内での創作活動を知る上で重要な史跡となっています。日本で唯一の創作拠点とした場所であり、実際に住んでいた4年ほどの間には、連作「下落合風景」が生まれています。アトリエで彼の生涯に触れ、佐伯作品の風景を探しながら下落合を散策するのもいいですね。

撮影ポイント:狭い入口、小さな建物ですが、超広角で撮影すると臨場感がなくなってしまいます。建物が傾かないように配慮しながら、見たままの姿を写し取ってみましょう。また、西日の射す時間帯がこの場所に相応しく、郷愁感を感じられます。

佐伯祐三氏のパネルが入口で出迎えてくれました

アトリエ内には「下落合風景」がパネルで紹介されています

旧居跡は新宿区立佐伯公園になっており、アトリエは当時のままの姿で静かな木立の中に保存されています

展示されているジオラマをのぞくとドローンで俯瞰撮影したように見えました

◆新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館
住所:東京都新宿区中落合2-4-21
電話:03-5988-0091
開館時間:5~9月10:00~16:30/10~4月10:00~16:00
料金:入場無料
休館日:月曜日(祝休日の場合は翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)

現在、東京駅の中に付設された美術館「東京ステーションギャラリー」 では佐伯祐三展が開催されています。これを機に本人の作品に触れてみてはいかがでしょうか。絵画とは言い切れないほど、アートとデザインが混在する佐伯作品。代表作が一堂に集い、今回初出品となる作品も展示されています。とても見ごたえがあり、刺激されますよ。4月からは「大阪中之島美術館」でも展示されます。

早速見てきました!  アトリエと展示の両方を見ると、時空を超越して感動してしまいました

早速見てきました! アトリエと展示の両方を見ると、時空を超越して感動してしまいました

お花見スポット① おとめ山(御留山)公園

ここからは、下落合エリアのお花見スポットをご紹介いたします。まずは、中村彝アトリエ記念館から歩いて5分ほど の場所にある「おとめ山公園」です。

勾配の谷戸地形にある「おとめ山公園」。春には桜並木になります

勾配の谷戸地形にある「おとめ山公園」。春には桜並木になります

ここはかつて江戸時代に将軍家の狩場だった場所で、この一帯を立ち入り禁止としたことから「御留山」という名になったそう。現在は新宿区の公園として整備され、地元住民に利用されています。木々の間を流れるきれいな湧き水を利用し、ホタルの繁殖も行われています。公園中央部を貫く道路、おとめ山通り沿いには桜の大木があり、これからの季節はお花見を楽しむ人々でにぎわいます。

かつての武蔵野の景観を残した園内では、森林浴を楽しむことができます

「東京の名湧水57選」に選定されているおとめ山公園の湧水

山の手の住宅地とは思えないほどの自然環境です

◆新宿区立おとめ山公園
住所:新宿区下落合2-10
開園時間:4月~9月 7:00~19:00/10月~3月 7:00~17:00

お花見スポット② せせらぎの里公苑と神田川

佐伯祐三アトリエ記念館の近くの聖母坂通りを下ると、間もなく西武新宿線・下落合駅です。線路を渡れば「せせらぎの里公苑」が見えてきます。

西武新宿線・下落合駅はローカルな雰囲気が漂います

西武新宿線・下落合駅はローカルな雰囲気が漂います

「せせらぎの里公苑」は、水処理施設の上部空間(地上)に造られた公園で、園内には水路や池などの水辺環境と、遊具が置かれた広場もあり、地域の人たちが集う憩いの場になっています。手入れの行き届いた花壇にはチューリップが色とりどりに咲き、しだれ桜とともに鑑賞すれば、春らしさを満喫できるはず。

撮影ポイント:チューリップは花壇の植え込み部分を見せないように構図を決めて、ローアングルで狙いましょう。人物の顔を写さないようにするには、手前の被写体にピントを合わせることで後ろボケの撮影ができます。

鮮やかなチューリップが出迎えてくれます(2019年撮影/カメラ:PENTAX KP)

ピントを合わせる花と、背景の距離をとることでボケやすくなります

マンションの水平ラインを活かして空を画面の1/3に配置させ、スッキリと見せました

◆せせらぎの里公苑
住所:東京都新宿区上落合1-1
開園時間:9:00~18:00
休園日:月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始

公園の裏手には神田川が流れています。川沿いは桜の木が連なり、川にせり出てしている枝に桜が咲くと見事な光景に。遊歩道は人通りも少なく、ゆっくり鑑賞できて贅沢な時間を過ごせるおすすめスポットです。混雑せずに桜を楽しみたい方は、ぜひお出かけしてみてくださいね。

冬の間は殺風景に感じられる神田川が間もなく桜並木に姿を変えます

冬の間は殺風景に感じられる神田川が間もなく桜並木に姿を変えます

撮影ポイント:川沿いに咲く桜は、枝を目線よりも下に見ることができるので、水面を背景に望遠レンズで切り取ります。近距離(手前)に咲いている花なら、マクロモードでクローズアップ撮影です。

新堀橋から川をのぞき込んで水面を背景に(2019年撮影/カメラ:PENTAX KP)

近所の人たちの散歩道です。本当は、内緒にしておきたい私のお気に入り桜スポット

花の散り際も水面に花びらが流れて美しい景色に

お花見スポット③ 新宿下落合氷川神社

西武新宿線の下落合駅から線路に沿って走る新目白通りを高田馬場方面へ歩けば、「新宿下落合氷川神社」が左手に見えてきます。

「新宿区下落合氷川神社」。新目白通り沿いの南鳥居

「新宿区下落合氷川神社」。新目白通り沿いの南鳥居

3月上旬には椿や梅とともにかわいいピンク色の河津桜が咲き、3月下旬頃から咲き始めるソメイヨシノよりも一足早く春を感じられますよ。

撮影ポイント:ピンク色は青空とのコンビネーションがよいので、画面の中に程よく取り入れてみて。ピンク色が派手になりすぎないように色の調整には気を付けましょう。

うっすらとしたピンク色がきれいな梅の花(2019年撮影/カメラ:RICOH GRIII)

鮮やかなピンクが印象的な河津桜

神社境内の様子が伝わるように背景に取り入れて。濃い色の背景にピンク色が引き立ちます

◆新宿下落合氷川神社
住所:東京都新宿区下落合2-7-12
電話:03-3951-3646

おわりに

山手線沿いの街には観光やショッピングで訪れる活気のある街がたくさんありますが、今回ご紹介した目白では、歴史と文化、自然に触れ、優雅な時間の流れを感じることができます。忙しない日常から離れ、じっくりと歩いてみませんか。お出かけのあとは、心の中に緩やかで心地よい春の余韻が残りますよ。

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#東京都 #カメラ #お花見 #旅写真 #春のお出かけ #目白 #山手線 #歴史と文化

Author

写真家 こばやしかをる

写真家

こばやしかをる

1996年フォトスクールで写真の基礎を習得後、デジタルデータ制作を写真関連企業の現場で習得。主にプリントの現場から写真を学ぶ。現在はフォトアドバイザー、展示・イベント企画、執筆、プロデュースなど、写真に関する幅広い活躍の場を持つ。「GR3 PERFECT BOOK」(インプレス)そのほか、「写ルンです」のワークショップ・テキスト、スマホ写真センスアップ術などもの監修を手掛けている。

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