「2025大阪万博は起爆剤のひとつ。目指すは地方からの日本復権」 大阪観光局理事長・溝畑宏さんインタビュー
2025年4月13日より開催される「大阪・関西万博」を2年後に控え、大阪ではメイン会場となる人工島「夢洲」をはじめ、大阪駅の北側、通称「うめきた」の再開発などが急ピッチで行われている。新型コロナウィルスの影響も収束しつつある中で、この万博開催がどのような意味をもつのか、そして現在、インバウンド観光などにおいても高い人気を誇る大阪で暮らす人々は、万博開催後にどのような夢や未来を抱いているのか。万博のキーパーソンの一人である大阪観光局理事長 溝畑宏さんにその野望について伺った。プロ野球の始球式などでも、着用された金色マントも登場。周囲を楽しませよう、大阪をもっと盛り上げようとする溝端氏のおもてなしの「魂」を感じさせます。
文/鷲巣 謙介 写真/久保 秀臣
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溝畑宏さんプロフィール/1960年京都生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省入省。その後、大分フットボールクラブ代表取締役、国土交通省観光庁長官、内閣官房参与、大阪府特別顧問、京都府参与などを歴任。2015年より大阪観光局理事長として活躍中。
対立と分断を共生に導く「大阪・関西万博」
私は2025年の「大阪・関西万博」は、天がもたらしたチャンスだと思っています。なぜなら、コロナウィルスの影響が長引いたことによって、東京オリンピックでは十分に世界に発信できなかった「日本の各地域の魅力」や、大阪の地から発信できるのですから。
環境問題や地域紛争、経済危機など、幾つもの問題を抱える時代の中で、「大阪・関西万博」の開催にあたり私たちが掲げているミッションが、万博を機に大阪という都市の魅力を伝え高め、開催都市として日本の復権と成長に貢献すること。そしてなにより分断や対立を深める時代の只中において、地域や文化、人種、信条、あらゆる壁を越えて、人々が協調・共生できる社会を示すことだと思っています。
万博開催の暁には、世界各国から多くの観光客が訪れるでしょうし、彼らは万博会場だけでなく、大阪の街にも足を運ぶでしょう。もちろん、現在の大阪は魅力的な食や歌舞伎・文楽をはじめとした伝統文化、世界文化遺産である百舌鳥・古市古墳群といった、歴史と文化に裏打ちされた数多くの魅力を持っています。
ただし、日本の各地域の魅力を発信する上で大阪という都市だけで、こうした海外からのお客さまをもてなすというのはあまりに器量が狭いように私は感じるのです。
大阪は「日本観光のショーケース」となる
日本における国宝・重要文化財の約6割が大阪、関西に集約されており、そのほかにも、地域食、アニメの聖地、美術館や博物館、城や忍者といった文化の数々が関西には点在しています。これは日本人はもとより、海外の人々を強く惹きつける魅力あるコンテンツです。
かつて大阪には、「北前船」というものがありました。これは大阪から瀬戸内・下関を経て西廻りに北海道へ到達し、そこから交易品や文化を日本各地へと運び伝えていったもの。この北前船のように、大阪を日本観光の玄関口であり、ハブとし、ここから関西各地、日本各地へ多くの観光客を導いていく。私たちは、万博の先に「日本観光のショーケース」となる大阪を目指しているのです。
もちろん、観光だけではありません。大阪・関西・日本の魅力を世界に発信し、人を集めることで、私たちが作り上げていくのは「住んでよし、来てよし、働いてよし、学んでよし、訪れてよし」の国際観光文化都市として確立された大阪。高度人材が世界から大阪を目指し、学び、ビジネスを繰り広げることで、大阪の魅力をさらに深く世界に向けて発信する、ニューヨークやロンドン、パリ、ローマと並び打ち勝つ世界に冠たる都市・大阪という存在になるチャンスです。大阪は、2023年アジアNo.1の国際観光文化都市を目指しています。
そのために現在、大阪では既存の観光資源の整備だけでなく、都市政策、交通政策・留学生の支援・高付加価値MICEやイベントの誘致、さらには国際医療貢献、LGBTQの理解浸透など、官民あげて取り組んでいます。
共生の時代、今こそ大阪の情熱と義理人情を
大阪・関西万博は、あくまでひとつの起爆剤。2025年以降も、うめきたヤードの再開発、中之島美術館・国立国際美術館を中核とする文化観光拠点の整備、淀屋橋の再開発、なにわ筋線や新大阪線の新規開通、関西3空港(関西・伊丹・神戸)の機能強化、大阪IR開業など、さらなる発展に向けたロードマップは既に計画されています。そしてこれらのハードをより魅力的なもの、活力あるものとしていくのが大阪の人々の長い歴史により築かれた義理人情とハングリー精神です。
大阪が難波宮(なにわのみや)として世界に港を開いたのは1,500年前。以来、大阪は、海外や他地域の文化を積極的に受け入れる包容力の高さを発揮しつつ、「やってみなはれ」の精神のもとに、民衆が主体となって商売を起こし、文化を形成してきました。これは、東京をはじめ他の地域では見られない成長の仕方です。
その限りない包容力と、活気あふれる民衆の力こそが、協調・共生をリードする原動力だと私は信じています。その第一歩として、まずは2025年「大阪・関西万博」で、大阪が世界にその範を示そうではありませんか!