初対面のカメラ仲間と過ごした種子島の旅
カメラやアート・建築が好きな旅色LIKESライターのリリが書く、フォトエッセイの連載。今回は鹿児島県にある種子島で、カメラ仲間と旅をしたときのことを綴ろうと思う。
「一人旅って楽しいの? 自分はどこで何をするかより、誰と行くかが大事なんだよね」。ある日同僚から言われた一言は、強烈な印象を残した。私には全くない発想だったから。一人旅も気心知れた誰かと行く旅も、どちらも楽しい。だけど、楽しいの種類が違う。今年の夏に行った種子島の旅で、私はまた新たな旅の楽しさを知った。そして“誰と”が持つ意外な側面に気が付き始めたのである。
目次
“初めて”の仲間と行く種子島の旅
今回の旅では、私にとって初めての要素があった。それは、一緒に旅をする相手がほぼ初対面だということ。オンライン上で繋がっているカメラコミュニティのメンバーで、共通点はカメラが趣味ということだけ。まだリアルでは会ったことのない、友達未満の私たち。それでも、この旅がきっと楽しいものになると予感していた。
移り変わる天気、島が見せるさまざまな表情
ーいくつかのフォトスポットでー
最初に落ち合った能野(よきの)海岸。ここで「初めまして」の挨拶を交わした
2泊3日の滞在中、種子島の天気は変わりやすかった。訪れたのは8月末。2日目からは台風が近づいている影響もあって、生憎の雨となる見込み。旅の目的のひとつである星空撮影には心配な天気だったものの、数ヶ月前に行った奄美大島の旅で心地よい雨があることを知った私は、雨に対してあまり悲観することはなかった。都会に降る雨は憂鬱で苦手だけど、自然豊かな土地に降る恵みの雨はどんな表情を見せてくれるのだろうと、少しばかりの期待もあったかもしれない。
種子島の夏は南国らしく湿度は高く日差しも強いが、日陰に入ると不快感は和らぎ過ごしやすく感じる。最高気温が35度を超えることはないそうだ。初日しか晴れ間は見られないだろうと思っていたから、この日は夏らしい晴れた空を存分に楽しんだ。海岸で手持ち花火も楽しみたかったけれど、残念ながら種子島では既に花火の販売時期は終わっていた。
2日目は終日雨を予想していたのに反し、太陽が照りつける青空も見られた。亜熱帯特有のものなのか、晴れ間がのぞいてはスコールとも呼べる雨が10分ほど降っては止む。3日目は朝方から大雨。強弱を繰り返しながらも、時折視界が真っ白になるほどの雨と強風に飛行機は飛ぶのか、フェリーは出航できるのかと、不安になるような天気だった。
天気を心配しながらも、種子島滞在中はほかにもいくつかの観光名所に訪れた
千座(ちくら)の岩屋
話題のドラマVIVANTを彷彿とさせる砂浜の向こうに鎮座する、自然が作り上げた岩のオブジェが幻想的な景観を誇っている。迷路のような洞窟の中を通り抜けた先には、砂漠で見つけたオアシスを思い起こさせるような景色が広がっていた。
種子島いわさきホテル
海辺に建つピンク色のリゾートホテルは、種子島宇宙センターにも近い。途中、雨が降ってきた。短時間で移り変わる天気は、1日で同じ場所のいくつもの表情を見ることができる貴重な体験。だから、雨が降っているからといって、悪いことばかりではないのだ。
Lamp(遠藤家住宅)
ー江戸時代に建てられた武家屋敷に住まうー
Instagramで偶然見つけて私が行きたいとリクエストしたのが、江戸時代に建てられた日本最南端の武家集落に残る「遠藤家住宅」。国の有形文化財にも登録されており、現在は建物全体のデザイン監修をし、家具製作なども手掛ける会社「Lamp」のアトリエ兼ショールーム、そして一棟貸しの宿泊施設と地域の子ども達のための寺子屋のような機能を備えた複合施設となっている。家全体が庭園に囲まれているので窓に映る緑に癒される、本当に素敵な空間だった。
ギャラリースペース
オリジナル家具の材料となっている栴檀(せんだん)は種子島に多く自生し古くから親しまれてきた花木で、いま注目のサステナブル木材だ。早生広葉樹であるため植林して20〜30年ほどで伐採できるまでに成長することから、林業の活性化にもつながる。歳月を重ねるとアメ色に変化していくので、暮らしと共に経年変化を楽しみながら使う人と一緒に円熟していくことができるのも魅力だと思う。
宿泊・多目的スペース
この施設の最大の魅力は建物も扱う商品も種子島の素材、種子島の職人によってつくられていることだ。建築関係の仕事をしている私にとって、元の建物の外観や構造材を保存しつつもセンスよく発展させ、地域に根ざしたクリエイティブな取組みを目にすることができたのはすごく良い刺激になった。
いま種子島では宿不足が問題になっている。自衛隊基地の建設による影響でこの先5年間ほど続くのだという。確かに先々のことを考えると現時点で大規模なホテルを建設することは賢明ではないのかもしれないが、このような小規模かつ多用途な施設ならどうだろうか。私たち観光客が楽しめるだけでなく、島民にも島の魅力を再発信し貢献できるような宿泊施設が少しでも増えるといいなと思う。
新たな魅力を纏い現代に生まれ変わった遠藤家住宅は、ここに住めば丁寧な暮らしができそうと思わせるような心地よい空間だった。次に種子島に来る時には必ずここに宿泊して、種子島素材の家具に囲まれながら日本文化に浸ってみたい。
星空と海の見える宿 サーフヴィラ・ナライ
ーカメラ仲間とだから気づく宿の魅力ー
私たちが宿泊したのは一棟貸しのキッチン付きコンドミニアム。オーシャンビューの4人部屋だ。素泊まりの宿で備品も最小限、部屋はDIYを思わせるような造りだが、太平洋を一望できると謳っているだけあって周囲の景色は素晴らしく、サーファーに人気なのも頷ける。しかし、私たちが見つけた宿の最大の魅力は、部屋に差し込む光の入り方だ。特徴的な光と影を見つけると、つい撮りたくなって皆カメラを構え出す。ポートレート撮影会が始まった。
出かける前の朝、部屋の中で撮影を楽しんでいると、メンバーの1人が撮った写真に衝撃を受ける。なんて事のないごく普通の玄関で、まるでウェディングフォトのような1枚を撮ったのだ。平凡な玄関もカジュアルな白いワンピースも切り取り方ひとつでこんな写真になるなんて。そもそも玄関で写真を撮ろうなんて思わない。ここが玄関だなんて、きっと誰も気付かないだろう。その発想力には本当に脱帽。どんな場所でもアイデアと工夫次第で立派な舞台になるのだと知った。クリエイティブな刺激に満ちたこういう瞬間が本当に楽しい。
1人で来ても宿の魅力には気づかなかったと思う。いや、光の入り方に気付いてもこんなに楽しむことはできなかっただろう。カメラ仲間とだったからこその滞在だった。
終わりに
ーあなたは誰と旅に出ることが多いだろうかー

旅は気心知れた相手とじゃなきゃ楽しめないという思い込みはないだろうか。私は一緒に行く相手が見つかりそうもなければ、真っ先に一人旅を選択してしまう。でも、友達未満とも言える趣味の仲間という第3の選択肢を得た今、これまでとは違う旅の経験ができるような気がしている。
さて、今回の旅だが、実は初めての要素がもう1つある。残された1つは、また別の機会に綴りたいと思う。