変わったこと、変わらないこと。今の神戸の楽しみ方を、観光局に聞きました
須磨エリアのリゾート開発や神戸空港発着数の増便といった新しい旅の話題が尽きない兵庫県神戸市。コロナ禍を経てこれまで観光の中心地だった三宮(さんのみや)・元町にとどまらず、周辺の魅力が増してきました。加えて、長らく工事で全体を白幕で覆われていた神戸のシンボル、「神戸ポートタワー」が2024年4月にリニューアル。変わったことも、変わらないことも、今の神戸の楽しみ方を、神戸観光局(神戸DMO)で専務理事を務める中西理香子さんに伺いました。
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中西理香子さんプロフィール/神戸で生まれ神戸大学卒業後に神戸市役所に入所。その後観光交流課長、観光コンベンション課長、企画調整局担当部長、灘区長など歴任。神戸全域の観光に精通。
数値で見えづらい「盛り上がり」
――観光庁の調査(※1)から、コロナ禍以前(2019年)と比べて兵庫は+3%と国内外問わず観光客が戻ってきていますが、神戸はいかがですか?
インバウンド宿泊者数は大阪・京都に比べると少なく、2023年の神戸の年間インバウンド宿泊者数は2019年と比べて8割程度の回復にとどまっています。一方で、日本人宿泊者数はコロナ前を上回っているので、全体としてはコロナ前の水準まで戻ったと言えます。
さらに、宿泊者数がクローズアップされがちですが、神戸は元より日帰りの方や客船で来られる方が多いまち。コロナ期に比べ国内外から客船の寄港が増え、数字的には把握できない分類の観光客が戻ってきている手ごたえがあります。
※1 「2023年(令和5年)年間値(速報値)報道発表資料」(観光庁)
観光客と地元住民の住み分けを
――賑わいが戻り活気づく反面、日本の地域によってはオーバーツーリズムから地元住民の足となる鉄道・バスが混雑で乗れないといった、生活に支障が出ているケースも見受けられますが……。
神戸はオーバーツーリズムの状況にはなっていません。2025年中にインバウンド宿泊者数100万人を目指していますが、まちのキャパシティを鑑みつつ、サービスの開発などを調整できたらと考えています。
観光地エリアと市民の生活エリアのかぶりが比較的少ないのも神戸の特徴です。地元の方々の居住エリアに観光客がどんどん来られて戸惑われることのないよう考慮しながら紹介場所を選定しています。
今の神戸は、徒歩圏内でも、公共交通機関でも名所を巡れて分散できている点も大きいですね。
――まちの方の声を聞く機会は今もあるのでしょうか。
各月の宿泊や来館状況を数字だけで把握するのではなく、現場の言葉を聞いてください、と職員には言っています。まちの方や事業者の皆さんの期待や不満などのご意見をできる限り神戸観光局の活動に活かせるように徹底しています。
――神戸市を特集した旅色6月号の取材中も、職員の方とまちの方の連携が普段からとれているんだな、と実感できるような速さで繋いでもらいました。
DMOが全国で多数組織されていますが、我々のように地方でDMOをやる場合は単にプロモーションをすればいいのではなく、まちを盛り上げていくための環境整備が重要だと思っているので、地域の方との関係作りは必須だと思っています。
神戸の進化はまだまだ続く
――観光客にとっても地元民にとっても居心地のいいまちを目指してきた神戸。2024年4月には神戸のシンボル「神戸ポートタワー」がリニューアルオープンしました。開発は一旦落ち着きますか?
まだまだ拡がっていきますよ。神戸市はウォーターフロント開発に力を入れていて、6月1日には「神戸須磨シーワールド」「神戸須磨シーワールドホテル」が開業しましたし、アスレチック施設などが造設される「三井アウトレットパーク マリンピア神戸」は11月に完成予定です。2025年春には第二突堤エリア(愛称:TOTTEI)に1万人が収容可能な「GLION ARENA KOBE(ジーライオンアリーナコウベ)」ができます。バスケットボールチーム「神戸ストークス(旧西宮ストークス)」の新しい本拠地にもなり、バスケットボールファンやライブやイベント開催などの集客も見込め、ウォーターフロントはさらに大きな人の流れができるでしょう。
――ウォーターフロントからほど近い神戸空港も、2025年の大阪・関西万博を視野に入れ、1日あたりの発着回数を80回から120回へと拡大します。
2025年には国際チャーター便の受け入れも可能となるため、サブターミナル施設も建設中。また、2030年頃には定期便が就航予定です。JR三ノ宮の駅ビル、バスターミナルも再開発が進んでいます。神戸市役所の2号館跡にはホテルや商業施設などの民間の集客施設も再整備されます。2025年以降は三宮周辺が新たに賑わっていきそうです。
私はこの前初めてバスケットボール観戦をしましたが、スピード感があって楽しかったです! サッカーの「ヴィッセル神戸」や「INAC神戸レオネッサ」、ラグビー「コベルコ神戸スティーラーズ」、「神戸ファストジャイロ」などいろいろなスポーツが盛んなまちなんです。スポーツ観戦の前後に観光もしてくれたらありがたいですね。
「自分のまちの延長線上」と感じる人が多いまち
――自然に文化にスポーツに、新たな旅の話題が尽きませんね。長く神戸とともに歩んできた中西さんからみた、このまちの変わらない魅力も教えてください。
先に話した異人館のある北野エリアやウォーターフロントエリア、神戸グルメで外せないパン店やスイーツ店が多く並ぶ三宮・元町エリアなど、若い女性に人気なまちのイメージがあると思いますが、現地に来てもらえると伝わる魅力が他にもたくさんありますよ。
山と海が市街地から非常に近く、三宮から歩いて20~30分ほどでどちらにもアクセスできます。西区や北区などへ電車で少し移動すれば田園風景が広がる農村地帯もあって、印象はガラリと変わるんです。気候が穏やかで気持ちのいい風が吹き、空気も澄んでいます。神戸に来る方は何度も来られる方が多いのもその居心地のよさからなのかな、と。第二のふるさと、自分のまちの延長線上だと思って、地元の方が通うようなお店にも行き、ライフスタイルを楽しんでいただける方が多いです。私自身もその心地のよさからずっと神戸で暮らしています。長年住んでいても飽きることがないんです。
登山回数2万回⁉ 「毎日登山」の文化が根付く
――コーヒーやパンの食文化をはじめ、港町の印象が強かったのですが、山の自然も豊かなんですね!
「毎日登山」という独自の生活文化もありますよ。六甲山系の山々に毎朝登る文化で、外国人がレジャーとして山にハイキングするのを見て始まった、神戸の歴史に紐づいた生活の在り方です。最近では、2万1,000回以上登山した強者もいるんですよ。365日で割っても、2万回って何年なん?って(笑)。山の中腹に何か所か毎日登山の拠点があるんですよ。近くに茶屋があるところもあり、そこで朝食を食べるのが神戸らしいですね。私も疲れた時は山に行くんです。1時間ぐらいで登って降りてこられるなど、気軽に行ける登山ルートがいっぱいあるんです。新神戸駅裏からすぐ行ける布引の滝などはハイヒールで無ければ、仕事着のまま登ったりしています。おんたき茶屋でおにぎりを食べて帰ってくるだけでも心が元気になる、お気に入りの場所です。
神戸市では登山プロジェクトを昨年から立ち上げ、環境整備と情報発信を推進しています。昨年7月にはJR新神戸駅に登山支援拠点「トレイルステーション神戸」を新拠点としてオープンさせました。装備の貸し出しや着替えスペースの提供もしています。六甲山もこれまで観光の方はバスやケーブルに乗って公共交通機関で行くというのがメジャーでしたが、トレッキングでも行ける、という点をもっと広めていきたいですね。
思い立ったらすぐ非日常な空間へ
――山は神戸市民の生活に溶け込んでいるんですね。ほかにも中西さんお気に入りのスポットはありますか?
潮風に当たりたいと思った時は、「メリケンパーク」や須磨の海岸、「アジュール舞子」にふらっと行ったり、「明石海峡大橋」までひと足延ばしたり。三宮から電車で30分ほどで有馬温泉にも行けるので、ランチと温泉にサクッと行くのもお気に入りです。神戸には温泉水の銭湯もあって、近くの灘温泉などに朝風呂に入りに行ったりもします。
遊覧船に乗って1時間ほど神戸港を周るだけでもリゾート気分を味わえますよ。神戸は港町なので、玄関口は海なんです。海があってまちがあって後ろに山がある、あの景色は神戸の顔ですよね。そんな景色を見に、遊覧船もぜひ乗っていただきたいです。
――思い立ったらすぐ非日常な空間へ行けるの、羨ましいです。
街ブラしながらスイーツやパンを買うのも自分にとってのささやかなご褒美ですね。近所にある創業90年以上の老舗「キムラヤ」のトーストがほんとうにおいしくて。朝4時から焼いているから、7時に行ったらずらっとたくさん並べてくれているので嬉しくなってつい3日分ぐらい買ってしまいます。ちょっと贅沢したい時は「フロインドリーブ」へ、趣向を凝らした惣菜系のパンを食べたい時は「Ca Marche(サ マーシュ)」へと、気分によってお店を変えられるぐらい、やっぱり神戸はパンに強いです。
一方で外国籍の方が多く住む神戸だからこそ、和洋中すべてで本場の味を楽しめる店が多くあるのも神戸の魅力です。
――日本三大夜景のひとつに数えられる神戸は夜の煌びやかなイメージがありましたが、朝登山や早朝から開くパン店など、朝も楽しそうですね。
モーニングを出す喫茶店も多いので、宿泊して朝早くから動いてもらうと、神戸を存分に楽しんでもらえますよ。大阪へはJRの新快速で20分なので、出張の拠点にしていただくのもおすすめです。神戸で朝1時間ぐらい登山したあとにシャワーを浴びてから移動しても、十分会議に間に合います(笑)。阪急、阪神も並行して走っているので、どこかが遅延していてもほかの路線が利用できて安心です。
――大阪支店のスタッフにも伝えておきます!
素朴な焼き菓子が、思い出の味
――新旧の魅力が混在している神戸、お土産を送るとしたらなにを選びますか?
仕事の手土産なら灘のお酒や神戸スイーツ、友人にはパンや名物グルメ・ぶたまん(香りが気になりますが笑)を持っていくこと多いですね。あるいはソース!ばらソースやプリンセスソースなど、神戸はソース文化があるので地ソースの種類が豊富なんですよ。長田周辺はお好み焼き屋さんが集積していて、ソースがズラリと並ぶお店もあるので、そこで買って行ったりも。
また、華やかな洋菓子もテッパンですが、瓦せんべいもおすすめなんです。卵と小麦粉とはちみつのみでできた焼き菓子で、神戸スイーツの原点ともいえるお菓子。瓦せんべいから発展した野球カステラという可愛いお菓子もあるんです。餡なしのシンプルなカステラで、お店によって大きさも形も味も違うので、何店舗か購入して味比べしてもらうのも楽しい。昔はたくさん販売店があり、今は少なくなりましたが、幼い頃は近くの市場でも瓦せんべいや野球カステラを焼く香りが漂っていました。ぜひ、地元民のソウルフードを買って帰ってください。
「旅色」で神戸市を大特集
おなじみの観光名所から生まれ変わったスポット、名物グルメまで、神戸は訪れるたびに新たな発見があります。「旅色」でも、鈴木杏樹さんが新旧の神戸を巡る『月刊旅色』をはじめ神戸を特集しています。ぜひ今だけの神戸を訪れてください。