湯田温泉の仕掛け人に聞く! 観光客を呼ぶアイデアの生み方と実現できる理由
ニューヨーク・タイムズ紙「2024年に行くべき52カ所」に「山口市」が選ばれました。その山口市の中でも人気の観光地が、湯田温泉。泉質や旅館の素晴らしいのはもちろん、スリッパ卓球大会やお祭りやカーニバルなどユニークな仕掛けが注目を集めています。今回はその仕掛け人である湯田温泉旅館協同組合の吉本さんに人を呼ぶアイディアの出し方について、お話を聞きました。
目次
湯田温泉旅館協同組合 吉本 康治さん
山口県徳山市(現:周南市)出身。JTB株式会社に勤務後、湯田温泉旅館協同組合の理事へ。山口市の魅力にハマり翌年には腰を据えた。3年前に専務理事となり、10年にわたって湯田温泉周辺の観光の中心を担っている。
湯田温泉とは?
「湯の町通り」。7か所の足湯がある。
――まずは湯田温泉について教えてください。
歴史的に見ると、1200年ころに書かれた『阿弥陀寺文書』に「湯田温泉」という言葉が出てきており、800年以上前にはすでに湯田温泉が存在したことが確認できました。山口県では一番古い温泉地で、西郷隆盛や大久保利通、坂本竜馬などの歴史上の人物も訪れていたんです。
――歴史ある温泉なのですね。湯田温泉の魅力はなんでしょうか?
大きく分けて2つあります。1つは、市内に泉源が6つあり、1日約2,000トンの天然温泉が湧き出ていること。それぞれ湧き出る泉質や硫黄の強さ、温度が異なるため、一度貯湯漕に集め、約65℃のアルカリ性単純温泉の湯田温泉オリジナル泉質となってからなってから配湯しています。美肌の湯ともいわれ、お肌がすべすべになるんですよ。わたしは市内にある足湯を掃除していたことがあるんですが、1ヵ月ほどでハンドクリームがいらないほど、つるつるになりました。実証済みです(笑)。
もう1つはアクセスがいいこと。山口宇部空港から車で約30分、新幹線が泊まる新山口駅から湯田温泉駅まで約20分です。さらに山口県内の萩、防府などへも電車や車を使って1時間以内で移動することができます。湯田温泉に宿泊施設が多いこともあり観光の拠点にするのにとても便利なんです。
実は悩みも……
――いろいろな温泉地が課題を抱えるなか、悩みなんてなさそうですね。
そうでもありません。人手不足のため100%の稼働が難しいところもあります。お客様を受け入れたいのに、受け入れられないのです。宿側の負担を減らすために、宿食ではなく、まちに出て食事をしてもらうのは? とも考えました。しかし400近くある飲食店のうちほとんどが夜営業で、朝・昼にご案内できるところが少ないのです。今後は、来てくれた人に朝でも昼でも時間帯関係なくご紹介できるようなお店を増やしたいですね。
湯田温泉発! 全国に広がったイベント
――宿もいいですが、湯田温泉はユニークなイベントがたくさん開催されていますよね?
一番大きい「ゆだおんせん白狐(びゃっこ)祭り」は、昭和24(1949)年から続いているお祭りです。戦後、経済の落ち込みとともに落ち込んでいる人々の心を、踊りで元気にしようと芸妓さんらが立ち上がったのが始まりです。湯田温泉には白狐の傷を癒した「白狐伝説」があることから「白狐まつり」と名付けられました。“びゃっこ”が“虎”ではなく“狐”なのは、日本には虎がいなかったためなのだそう。今は地元のお祭りとしてだけでなく、観光客の皆さんも一緒になって盛り上がるイベントとなりました。毎年4月の第1土日に開催しています。
――白狐祭りのほかに、スリッパ卓球大会も開催していましたね。

スリッパ卓球大会
山口市は卓球元日本代表の石川佳純さんの出身地なので、温泉街を盛り上げることを目的に始めました! スタート時は湯田温泉のみで行っていましたが、最近では長崎県の雲仙、熊本県の黒川、佐賀県の嬉野温泉とも共同で開催していて、全国大会のようになっています。今年は北海道の「まっかり温泉」も参加してくれました。湯田温泉を盛り上げるために始めた取り組みが、全国に広がり、温泉街同士の交流の場になっています。
アイディアを出す“私”と、形にしてくれる“相棒”
――そのイベントなどのアイディアはどのように生まれるのですか?
思い付きです(笑)。実際、ひねり出しているわけではなく、本当にぱっと浮かぶんです。湯田温泉を歩いたり、湯田温泉の人と話すなかで、刺激を受けてアイデアがブラッシュアップされていく感じでしょうか。
2020年に、コロナ禍でお祭りの自粛モードがあったため1度だけ「ユダ・カーニバル」を実施しました。きっかけは「なにやろう、おしゃれなカーニバルかな」と思ったことでした。好評の声も多かったので、またやりたいなと思っています。
ほかにも、山口県には日本海、下関灘、周防灘と3つの海域があり、新鮮な海鮮が魅力です。その3つの海のいいとこどりをして料理を提供できるのが山口市です。そんなきっかけから、3つの海の海鮮を集めた料理を出したいというアイデアが浮かびました。山口県全域の味を楽しめるものなら、山口県の伝統工芸品である萩焼の、県の形に模したお皿で提供したらおもしろいんじゃないか?とパッと思い浮かんだアイディアが浮かびました。長州屋の上田社長に声をかけたところ、すぐに形にしてくれたのです。私はアイディアを考え、周りの人が協力して実現してくれています。
今後の野望は「温泉街ミステリー」!?
――おもしろいですね! 今後取り組んでみたいことはありますか?
コロナ禍の前に計画していたのですが、修学旅行にくる学生に向けた企画をしていきたいと思っています。歴史の授業のなかで室町時代が出てくるのは、少しだけですよね。山口市には室町時代の歴史が濃く詰まっています。ミステリー風に楽しんで学んでもらえるパンフレットを用意したので事前に勉強して、訪れたときには山口市にのめり込んでもらえるほど楽しんでもらいたいなと思っています。
ほかにも、頭の中にはやりたいことがたくさん浮かんでいますが、これからのお楽しみです。
――湯田温泉の楽しみ方がますます広がりますね!
NYタイムズで取り上げられた内容を見て、「観光=生活を体験できるもの」という楽しさを味わえるのが山口市なのだと気づかされました。山口市の良さは歩いてこそ感じることができます。地元の人との接点が多いため、まちに溶け込んで楽しんでいただきたいです。
また2025年4月に私たちが運営する「湯田温泉 こんこんパーク」が開業予定です。美肌の湯を楽しんでいただける日帰り温泉のほか、屋根がある広いスペースでイベントや、飲食店の用意も進めています。
終わりに
吉本さんから出てくるアイディアの量はかなりのもの。実現が難しいものもあるとは思いますが、協力してくれる仲間を増やしていく求心力が、吉本さんのすごさなのだと感じました。ますます目が話せない湯田温泉は、7月25日公開の『月刊旅色』8月号でも特集を予定しています。お楽しみに。