「なぜ山口市が?」に答えます。観光コンベンション協会に聞く山口市が世界に見つかった理由
2024年1月、米メディア『 The New York Times(以下ニューヨーク・タイムズ)』が発表した「52 Places to Go in 2024(2024年に行くべき52カ所)」に、日本から唯一「山口市」が選出されました。居並ぶのは、4月に皆既日食が見られた「北米」、オリンピックを控えた「パリ」など世界的に話題のところばかり。この誇らしいニュースに国内中が浮足立つ一方、「山口市のことを実はあまり知らないかも……」と思った方もいるのでは? 「なぜ山口市が選ばれたのか」に胸を張って答えるべく、山口観光コンベンション協会の川井さんに話を伺いました。
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県外出身ながら、大学時代を過ごした山口市の観光に携わるために1年ほど前に移住。登山が好きで、山口県内でイチオシの山は景色が美しい東鳳翩山(ひがしほうべんざん)。
「え? 山口市が?」市民も実は驚いてました……
――まずは山口市が『ニューヨーク・タイムズ』の「2024年に行くべき52カ所」に選ばれた感想を教えてください。
驚きました(笑)。1月に『ニューヨーク・タイムズ』で記事が掲載されて、それが日本の各メディアや媒体で取り上げられ、我々はそこで知ったんです。事前連絡があったわけではなく、山口市の観光交流課の皆さんも含めて全員なにも知らない状態で、「『ニューヨーク・タイムズ』で取り上げられていますが、いかがですか?」と問い合わせを受けたので、本当に驚きました。
――それは戸惑いますね……。
地元の方々も最初はやっぱり驚きのほうが大きかったと思います。日本で一番有名な海外誌ともいえる『ニューヨーク・タイムズ』で山口市を取り上げていただいて、ほかに紹介されている都市がパリとか……。なので「やった!」というより「え、なんで?」という感じだったかもしれません。ただ、世界的に有名な都市と並んでご紹介いただけたことはすごくありがたいことだと感謝しています。誇らしく、光栄です。
――記事の中では、観光公害が少ないコンパクトシティである点などが紹介されていました。
その点も驚いた理由でした。もともと我々は「人が少ない」「まちが小さい」ということをそこまでよい点だと思っていなかったのですが、それが「混雑していなくて、まちを巡りやすい」ということで、旅行者にとってはよいところなのだと我々も改めて気づかされました。
――オーバーツーリズムは各地で問題になっていますね。
国内外の方で賑わっているのはいいことですが、その弊害が出てきているなかで、山口はそういった要素が少ないとご紹介いただきました。ただ今後はますますいろんな方々が来てくださると思うので、受け入れ体制の整備や、来ていただいた方々に満足していただけるよう取り組んでいます。例えば、新幹線の停まる新山口駅の観光案内所には英語の話せるスタッフが常駐しているのですが、市内の案内所では英語ができるスタッフが基本的にいなかったので、常にいてもらうようにしたり、あとはシェアサイクル・レンタサイクルなどモビリティを充実させたり。まずは来てくださった方々にご安心いただいて、リピーターになってもらえるように心がけています。
“観光しやすい”以外の魅力
――では「観光しやすい」こと以外の、山口市の魅力はなんでしょうか?
山口市は“西の京”といわれている通り、瑠璃光寺や五重塔、湯田温泉、萩往還といった歴史ある名所が多数あります。今も風情ある町並みが残っているのも特徴です。なかでも萩往還は、防府(ほうふ)から山口市を通って、萩まで歩く道が残っています。石畳が美しく、昔の方々もこういったところを歩いてたんだなと楽しめるんです。『ニューヨーク・タイムズ』で山口市を紹介してくれたライターのクレイグ・モドさんも実際に歩かれたようです。
街なかだと、「一の坂川」は桜がきれいで、夏にはホタルが舞います。県庁所在地ですが、そこまで都会的ではなく、市街地にまだまだ歴史深い場所や自然が残ってるところもいい点だと思いますね。また、山口市自体が県の中央にあるので、湯田温泉を拠点に岩国や秋吉台、下関、萩や長門などいろいろなところに行きやすいんです。
全国初のイベントも開催
――ユニークなイベントもありますよね!
「大内蹴鞠(けまり)ワールドカップ」ですね。山口市を含む一帯を治めていた守護大名・大内氏が蹴鞠に親しんでいたという文献から着想を得て、全国で初めて一般参加型の蹴鞠のイベントを開催しました。1チーム6名のチーム制で、 募集枠の16 チームはおかげさまで全部埋まり、大盛況でした。
――どのようなルールなんですか?
チーム内で鞠を蹴って繋いだ回数を競います。サッカー経験が活かせる部分もありますが、ボールと鞠では形も感触も違うので、簡単そうに見えて結構難しくて、盛り上がりますよ。地元のサッカーチーム・レノファ山口の選手にもやってもらったんですけど、かなり苦戦していました。優勝したのはご家族連れのチーム。個人の技術よりも、誰がどうやって蹴るのかというチームワークが重要だそうです。第1回を今年の1月に行ったので、今後も続けていきたいですね。
旅の目的がない人にやさしい街
――川井さんは県外のご出身ですが、だからこそわかる山口市の強みはなんだと思いますか?
言葉にしづらいのですが、地元の方々が受け入れ側として温かいことは大きな魅力だと思います。なかなかここまでの街は、意外とないんじゃないかな。それから、山口市は市を象徴するものがひとつではないと思うんです。つまり岩国の錦帯橋、下関のフグといった、わかりやすい代名詞がない。瑠璃光寺も湯田温泉も知られていますが、そういった場所だけではなく、滞在のしやすさ自体が強みだと思います。山口市を目的に、山口市に滞在する時間そのものを目的に来てもらうようにしていくのも我々の仕事かなとは思います。
――“滞在する時間を楽しむ”というのは旅の上級者向けのように思いますが……
というより、歴史的なところも、温泉も、食べ物も、「いろんなものが楽しめる」ということです。逆を返せば、歴史が好きじゃないと楽しめない、温泉が好きじゃないと満足できないなんてことはありません。それぞれの目的で、いろんなものを楽しんでいただけるんです。ゆっくりといろんなところを回って、心地よい時間が得られると思います。旅の目的が明確になくても、ただ心地よい時間を過ごしたい方によい街だと思うんです。
回答:山口市は居心地がよい
お話を聞くなかで、川井さんに「山口市には大きなショッピングモールがないんです。だからオリジナルのお店が多く、“一色”にならないんです」と聞きました。これは山口市の魅力の核心では! と思いました。わかりやすい名所やしなければならない旅体験がないので、一見すると旅の楽しみ方がわかりにくい。ただ、空港や主要駅からほど近く、利便性があって、自然もある。温泉もあるし、歴史的名所もあります。ほら完璧です。そして、人もとてもいいんです。湯田温泉の足湯でも、晩ごはんを食べに入った食事処でも地元の方とおしゃべりしたのですが、どちらも、旅先で戸惑う旅行者への温かいフォロー「だいじょうぶですか?」がきっかけでした。控えめで、穏やかで、温かい。街も人も居心地がよいんです。「2024年に行くべき場所」、行くべきです。