【倉方俊輔の建築旅】甲府駅前に広がる名建築を散策する

山梨県

2024.08.30

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【倉方俊輔の建築旅】甲府駅前に広がる名建築を散策する

山梨県甲府市は、江戸時代から現代までの建築の歴史が折り重なっている街。少し前からJR甲府駅の周辺が整備されたことで、より歩きやすく、いっそう緑豊かな環境の中で、建築を楽しめるようになりました。駅から徒歩圏内に位置する名建築を散策しながら、昭和時代の建物を中心にトレンドとなった建築を訪ねてみましょう。

目次

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洋風のタイルと和風の瓦が融合「山梨県庁舎別館(旧山梨県庁舎)」(1930年)

機能性の中に個性的なデザインも「山梨県庁舎本館」(1963年)/明石信道

フロアを増築させながら進化を遂げる「山梨文化会館」(1966年)/丹下健三

駅前にはレトロ建築スポットも

おわりに

洋風のタイルと和風の瓦が融合「山梨県庁舎別館(旧山梨県庁舎)」(1930年)

JR甲府駅から徒歩約8分のところにある「山梨県庁舎別館(旧山梨県庁舎)」

JR甲府駅から徒歩約8分のところにある「山梨県庁舎別館(旧山梨県庁舎)」

建物は洋風な造りだが、玄関部分の屋根は瓦が使われている

建物は洋風な造りだが、玄関部分の屋根は瓦が使われている

JR甲府駅の南口に、堂々とした武田信玄の銅像があります。そこからほんの数分歩けば、1930年に建てられた「旧山梨県庁舎」に到着です。現在は「山梨県庁舎別館」と名前が変わったものの、現役の建物として使われています。中央が高く、左右対称で、全体に直線的なイメージです。建物の角がきっちり出ていて、壁を覆う茶色のタイルも堅牢そう。堂々として、第二次世界大戦以前の庁舎の威厳を今に伝えています。

「旧山梨県庁舎」と「山梨県議会議事堂」は同じ敷地内にある

「旧山梨県庁舎」と「山梨県議会議事堂」は同じ敷地内にある

左右対称の造りが印象的な「山梨県議会議事堂」

左右対称の造りが印象的な「山梨県議会議事堂」

当時の県庁舎と県議会議事堂が揃っていることが、ここを訪ねる理由です。側面からも眺めましょう。さらに裏手にまわると「山梨県議会議事堂」(1928年)が見えてきます。こちらもタイルが細やかに貼られ、一番上の階にだけアーチ窓が使われています。共通する要素が、心地良いハーモニーを奏でています。

ただし、山梨県議会議事堂のほうが親しみやすく、洋館のような雰囲気が感じられるのではないでしょうか。それは規模が小さいために、玄関上のアーチ窓などの曲線が印象を左右していること、それにまぶされた昭和初期らしいデザインが効いているからです。

「旧山梨県庁舎」と「山梨県議会議事堂」

建物から昭和の初めらしさが漂うのは、和風の意匠を取り入れた工夫です。2棟とも建物の高い部分に軒が付いています。壁からカーブして突き出た部分に瓦が乗り、その下の持ち送り(壁や柱などに取り付けられる、梁、庇などを支える部材)は、お寺に使われる組物に似ています。県議会議事堂の隅には、それが丁寧に斜め45度に取り付けられ、屋根の隅部分から屋根なりに沿って入る“隅木”という伝統建築の部材のようです。

「神奈川県庁舎」(1928年)や「名古屋市庁舎」(1933年)など、昭和初めに、西洋的な公共建築に和風のデザインを取り入れる試みが行われます。俗に帝冠様式とも呼ばれます。この県庁舎と県議会議事堂の場合、2棟が建つのが江戸時代の甲府城の敷地であることが、和を意識した理由だったのでしょう。

瓦を乗せたりすると、ともすると威圧感が増すものですが、そうではなく、ある種のかわいらしさを生んでいるのが、この2棟の面白みです。軒の瓦は鮮やかな緑色をしています。それが特に県議会議事堂で、当時流行したスパニッシュ・スタイルを連想させます。住宅のような感覚は、細やかな持ち送りによっても強まっています。部材の一部はキザギザした幾何学形になっており、これは同じ昭和初期に流行ったアール・デコの特徴です。

一連の県庁の敷地は現在「オープンガーデンやまなし」という愛称で一般開放され、夜にはライトアップも行われています。整備された芝生や緑の中で、和風、スパニッシュ、アール・デコといった昭和初期のスタイルを併せ持った建築も、居心地が良さそうです。

機能性の中に個性的なデザインも「山梨県庁舎本館」(1963年)/明石信道

写真左に建つのが「山梨県庁舎本館」。別館と同じ敷地内にあるので見比べながら見学ができる

写真左に建つのが「山梨県庁舎本館」。別館と同じ敷地内にあるので見比べながら見学ができる

現在の「山梨県庁舎本館」は、別館とL字型に向き合っています。1963年に完成した建物は、高度成長期に建てられたビルのよう。手をかけて設計され、それが良く維持されています。別館と比べると規模が大きく、箱型の全体に窓が規則的に開いています。金属の庇も工業的な感触で、機能を重視した建物に見せるという、戦後の昭和らしい設計になっているのです。

建物はまっすぐで、窓が規則的に並んでいるのが印象的

建物はまっすぐで、窓が規則的に並んでいるのが印象的

本館を横から見ると、ベランダが突き出しているところも

本館を横から見ると、ベランダが突き出しているところも

けれど、そんな雰囲気を崩さずに、壁の茶色のタイルや真ん中に突き出た玄関によって、隣にある先代の県庁舎といわば対話しているのが、デザインの妙。コンクリートの造形を生かした窓やベランダなど、意外な面白さもあります。ぜひ注目してみてください。

◆山梨県庁舎
住所:甲府市丸の内1-6-1
電話番号:055-223-1391

フロアを増築させながら進化を遂げる「山梨文化会館」(1966年)/丹下健三

地上8階、地下2階の「山梨文化会館」は増築を経て今の形になった

地上8階、地下2階の「山梨文化会館」は増築を経て今の形になった

JR甲府駅の北口にまわると、芝生の向こうに「山梨文化会館」がそびえています。新聞社や放送局などが入る建物として、1966年に完成しました。通常の箱型ではありません。いくつかの円筒形が立ち、階がそれらを梁のようにつないだ印象があるのではないでしょうか。

1974年に北東部分の6~8階、南東部分の5、6、8階を増築した

1974年に北東部分の6~8階、南東部分の5、6、8階を増築した

それこそが、この建築のアイデア。窓のない円筒形の部分にはエレベーターや階段などが入り、構造を支える巨大な柱としても機能しています。その間にフロアを設け、必要であれば増やせる、増築可能なシステムが当初から計画されました。実際にフロアを増やして、現在の姿になっています。

設計したのは、世界に知られた建築家の丹下健三。全盛期の彼の前衛性にハッとさせられるのも、甲府ならではです。

◆山梨文化会館
住所:甲府市北口2-6-10
電話番号:055-231-3000

駅前にはレトロ建築スポットも

1875年に建てられ、2010年に今の場所に移築された「甲府市藤村記念館」(旧睦沢学校校舎)

1875年に建てられ、2010年に今の場所に移築された「甲府市藤村記念館」(旧睦沢学校校舎)

JR甲府駅の近くには、他にも見逃せない名建築があります。駅の北口広場に国の重要文化財に指定されている擬洋風建築の「甲府市藤村記念館」(旧睦沢学校校舎)があります。1875年に山梨県巨摩郡睦沢村(現:甲斐市亀沢)に建てられました。1967年に国の重要文化財に指定されたことで、1969年に郷土資料の展示館として親しまれることになります。現在は交流ガイダンス施設に生まれ変わり、多くの市民の方々が訪れています。

古民家や蔵、倉庫などを移築し、甲府城下町を再現したショッピングセンター「甲州夢小路」は2013年にオープン。「甲府 時の鐘」がシンボル

古民家や蔵、倉庫などを移築し、甲府城下町を再現したショッピングセンター「甲州夢小路」は2013年にオープン。「甲府 時の鐘」がシンボル

「甲府市藤村記念館」から約3分歩くと、明治〜昭和初期の甲府城下町を再現した「甲州夢小路」に到着。ここでは実際の古民家を活用しているので、城下町の雰囲気に浸りながら、当時使われていた建物を見られます。

◆甲府市藤村記念館(旧睦沢学校校舎)
住所:甲府市北口2-2-1
電話番号:055-252-2762

◆甲州夢小路
住所:甲府市丸の内1-1-25
電話番号:055-298-6300
営業時間:10:00~18:00

おわりに

JR甲府駅を降りてすぐ、建築を通して昭和を中心としたさまざまな時代を巡ることができます。ぜひ建築の視点で、甲府駅周辺を散策してみてください。

山梨県甲府市を紹介している『月刊旅色9月号』はこちらから

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#山梨県 #建築旅 #甲府市

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建築史家 倉方俊輔

建築史家

倉方俊輔

1971年東京都生まれ。大阪公立大学教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行なっている。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)など。Peatix「Kurakata Online」や「NHK文化センター」で、建築の見かたをやさしく学ベるオンライン講座も開講中。

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