【奈良】邪馬台国と卑弥呼の謎に迫るミステリー 「箸墓幻想」を巡る旅
作家・内田康夫の人気ミステリー小説「浅見光彦シリーズ」は20年ほど前に流行り、テレビドラマ化されたものも多数。シリーズのうちの一つである「箸墓(はしはか)幻想」が当時、新聞で連載されていたので、それを楽しみにしていました。今回、この作品をテーマにした文学旅のプランを、「奈良まほろばソムリエ」の資格をもつ神奈月みやびが作ってみました。これから紅葉が最盛期を迎える奈良県で、読書の秋を楽しんでみませんか。
目次
選んだ本:箸墓幻想
著者:内田康夫
場所:奈良県橿原市、桜井市、奈良市
移動手段:公共交通機関(電車&徒歩)または車
誰と行くか:一人、または古代史ファンのお友だちと
予算: 3,000円(入場料、ランチ代)+交通費
今回の小説「箸墓幻想」の浅見光彦に憧れるヒロインは、「當麻寺」の「奥の坊」の娘という設定。実際には「當麻寺」の塔頭に、名がよく似た「中之坊」と「奥院」があります。この本をよく読むと設定は中之坊かな、と感じました。
「橿原考古学研究所」と貴重な古代の遺物がごろごろある附属博物館
畝傍御陵前駅から徒歩約5分。浅見光彦が解決の依頼を受けた研究所で、殺された研究者が勤務していた“畝傍(うねび)考古学研究所”のモデルになった施設が「奈良県立橿原考古学研究所」です。作中には橿原神宮前駅から、と書いていますが、最寄り駅は畝傍御陵前駅なので、こちらからの方が近いです。ここは県立ですが日本有数の考古学の権威で、たくさんの学芸員が勤務しています。本にも書かれているとおり、県内に多数ある古墳の調査で、日々どこかで発掘調査に励んでいます。
隣には附属博物館が併設され、発掘された土器や埴輪は常設展示。季節ごとに特別展も行われています。
◆奈良県立橿原考古学研究所
住所:橿原市畝傍町1番地
電話:0744-24-1101
◆奈良県立橿原考古学研究所付属博物館
住所:橿原市畝傍町50-2
電話:0744-24-1185
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、臨時休館日
“神の宿る山”として崇められた蛇神を祀る「三輪明神 大神(おおみわ)神社」
奈良県立橿原考古学研究所を出たら畝傍御陵前駅から電車に乗り、大和八木駅で乗り換えて桜井駅まで向かいましょう。桜井駅に着いたら近鉄電車から古代ロマンを感じられるローカル線・JR万葉まほろば線に乗り換えます。ちなみに、万葉まほろば線は愛称で、正式名称は桜井線です。電車の本数が少ないため、発車時刻には要注意。桜井駅から一駅ですが、歩くと大変なので、時間を合わせて大神神社の最寄り駅三輪駅まで乗車しましょう。三輪駅を下車すると、大神神社の参道の途中に出ることができます。
大神神社の御神体は三輪山。古墳を訪れる前に、神様にお祈りというのも大切なことかもしれませんね。三輪の神様は大国主命で、白蛇の姿をし、娘のところに現れたと伝わります。こんなエピソードを知っていると、古代ロマンに俄然興味が湧きますよ。
◆三輪明神 大神神社
住所:桜井市三輪1422
電話:0744-42-6633
古代最大級の前方後円墳「ホケノ山古墳」
大神神社を後にしたら、日本最古の古道と言われている「山の辺の道」を歩きます。道中、いくつかの摂社や古墳を通り過ぎながら歩くこと約30分。作中発掘現場として登場する「ホケノ山古墳」に到着です。本が書かれた時代にはまだ発掘途上でしたが、その後の調査で、古代最大級の前方後円墳ということがわかっています。
◆ホケノ山古墳
住所:桜井市箸中636
電話:0744-42-6005(桜井市立埋蔵文化財センター)
邪馬台国がここにあったかも!? 「箸墓古墳」
「ホケノ山古墳」から線路を挟んで、西の方に向かいます。次の目的地は、卑弥呼の墓ではないかと目されていて、この旅のメインコンテンツでもある「箸墓古墳」です。
この本が書かれた約20年前、邪馬台国は畿内説と九州説が対立していて、ホケノ山古墳と箸墓古墳の築造時期が4世紀なのではないかと言われていました。それを3世紀までさかのぼり、銅鏡の大発見を軸に物語が展開していきます。しかし、小説の内容を追いかけるようにして、実際に橿原考古学研究所の調査でホケノ山、箸墓の両古墳が3世紀前半から中半の築造ということがわかってきました。まさに、邪馬台国や卑弥呼が一気に近づいたわけです。
けれども、箸墓古墳は今でも宮内庁の治定で、孝霊天皇の娘である倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)の大市墓として管理されています。作中でも宮内庁の管理下にあるため、発掘も調査もできずに歯がゆいと書かれていますが、状況としてはあまり変わっていないかもしれません。
しかし、最近では物質を透過するミューオンという機械を使い、橿原考古学研究所が古墳の外から調査をしているとの情報も。今もまだ、卑弥呼の墓とは断定されていないわけですが、一気に古代史を塗り替える発見に期待したいところです(私は当然ながら、邪馬台国畿内説を信じています!)。
◆箸墓古墳
住所:桜井市大字箸中
「三輪山本」で桜井市の名物“三輪そうめん”を食べる
さて、こんなに歩くとさすがにお腹が空きます。昼食は桜井市の名物である“三輪そうめん”を食べましょう。大神神社の参道も含め、桜井市には三輪そうめんのお店が多数点在。おすすめはいくつかありますが、箸墓古墳から一番近いのは「三輪山本」というお店です。
三輪そうめんは、本当に細く、つるつるとしたのどごしが特徴。奈良県で生まれ育った私は、夏のお昼に毎日そうめんを食べていました。暑い時期には冷たくして、寒くなったらにゅうめんにして食べてくださいね。
◆三輪山本
住所:桜井市箸中880
電話:0744-43-6662
営業時間:11:00~LO15:00
大神神社を参拝して既にお腹が空いてしまった方は、大神神社から箸墓に北上する途中にある二つの店で食べるのもおすすめですよ。
「そうめん處 森正」
大神神社近くにある「そうめん處(どころ) 森正」。そうめんのメニューが充実しているので、王道を味わいたい方におすすめ。奈良の名物、柿の葉寿司もあります。
◆そうめん處 森正
住所:桜井市三輪535
電話:0744-43-7411
「お食事処 千寿亭」
国道169号線沿いにある「お食事処 千寿亭」。そうめんやにゅうめんだけではなく、御膳や会席料理も用意されているので、お腹いっぱい食べたい方はぜひこちらへ。
◆お食事処 千寿亭
住所:桜井市芝322-2
電話:0744-43-2421
駅周辺に広がる遺跡群「纏向(まきむく)遺跡」
三輪そうめんを食べたらJR巻向駅へ。同じ“まきむく”でも遺跡の名前は纏向で、駅名は巻向。駅のすぐ脇に遺跡跡の柱が復元されています。「纏向遺跡」とは、ホケノ山古墳や箸墓古墳も含めた広大なエリアのこと。なので、JR巻向駅周辺自体が次の目的地「纏向遺跡」ということです。このあたりは長年の調査により、古代に本格的な都市が築かれていたということがわかっています。北九州説では邪馬台国がどこの遺跡なのかさまざまな説がありますが、畿内説は纏向以外にはないということで一致。
◆纏向遺跡
住所:桜井市辻
電話:0744-42-9111(桜井市役所)
日本に二つしかない国立の女子大学のうちの一つ「奈良女子大学」
さて、JR巻向駅から再びローカル線の旅。万葉まほろば線の終点奈良駅へ。作中で何度か出てくる大和女子大学は、「奈良女子大学」がモデルです。ヒロインや考古学研究所の研究員も、この大学の在学生・卒業生という設定です。奈良女子大学は近鉄奈良駅からの方が近いので、疲れている方はJR奈良駅からバスに乗りましょう。元気な方は約20分歩けば到着します。奈良女子大学は100年以上の歴史を有する、国立では2つしかない女子大学。奈良県の土地柄が男尊女卑の風潮であるのに、女子大のレベルとしては最高峰の大学がここにあります。
◆奈良女子大学
住所:奈良市北魚屋東町
電話:0742-20-3204
「箸墓幻想」を片手に、旅を楽しんでみては?
さて、作者の内田康夫氏は、このような数々の旅ミステリーを残して亡くなりました。ミステリーには時代が反映され、時が経てば、謎解きとしては陳腐になってしまうこともあります。しかし、「箸墓幻想」はまるで今を予言したようなストーリーになっているのが面白いところ。大和の長い歴史の中では、10年20年は瞬く間のこと。悠久の歴史の宝庫、奈良をぜひ訪れてみてくださいね。
この記事を書いたメンバー
神奈月みやび
出身は奈良県五條市。現在は奈良市内の観光地エリアに住んでいます。奈良をこよなく愛し、奈良愛を布教する人間です。奈良を売り込むのをライフワークにしています。 特に奈良のお酒が好き。令和6年5月、奈良まほろばソムリエ検定の最上位ソムリエ級に合格。