【福岡】九州鉄道の玄関口門司港をトロッコ列車と船でめぐる旅
愛読書は時刻表、旅色LIKESライターの鉄道旅担当・なおです。今回旅したのは、福岡県北九州市の門司港エリア。明治の面影を残す洋館が立ち並ぶ門司港はもちろん、市内には「日本新三大夜景都市」1位に輝いた皿倉山からの夜景や、アメリカCNN「日本の最も美しい場所31選」に選出された藤の名所「河内藤園」など、これからの旅にもぴったりなスポットが点在しています。門司港エリアは関門海峡に面し明治以降交通の要衝として飛躍的な発展を遂げました。鉄道の開業も1891(明治24)年と早く、門司港駅や九州鉄道記念館には貴重な鉄道遺産が多数。門司港を走るトロッコ列車や船に乗って魅力をたっぷりとお届けします。
目次
鉄道の歴史を今に伝える門司港観光の玄関口・門司港駅
門司港エリアは、かつての繁栄した時代を物語る建物が多く集まる港周辺のことです。「門司港レトロ」として再開発したことで美しい街並みとなり、今では北九州市を代表する観光地として県内外から多くの観光客が集まる場所となりました。観光の玄関口となるのがJR九州鹿児島本線の門司港駅。駅舎は1914(大正3)年に建てられた2代目の駅舎で、ネオ・ルネッサンス様式の左右対称のデザインが特徴です。建物を正面から見たときに「門」の字を表現しているともいわれています。その美しさや歴史的価値から1988(昭和63)年には鉄道駅舎として初めて国の重要文化財に指定されました。築後100年が経ち老朽化も目立っていたため、平成に入ると6年に及ぶ大改修が行われ、2019(平成31)年に大正時代の面影を残した新たな門司港駅にリニューアルされています。
駅舎以外にも素通りするにはもったいない魅力がたくさん詰まっています。長く続く木造屋根に掲げられた駅名標は絶好のフォトスポット。多くの観光客がここでポーズを決めて写真を撮っていきます。駅舎内は大正時代の趣そのままにリニューアルされており、三等待合室だった場所はスターバックスに。リニューアル前の柱や調度品の一部を残すなど歴史を伝える工夫がされています。終戦後、港には引揚者や帰還した日本兵が多く戻り、「帰り水」が優しく受け入れました。ほかにも戦時中の金属不足で線路などが接収され、軍事転用されることを免れた青銅の「幸運の手水鉢」からも戦時の歴史を静かに伝えてくれています。
トロッコ列車「潮風号」で門司港を満喫しよう!
今回のメインとなる鉄道を紹介しましょう。門司港駅から徒歩約2分のところにある「九州鉄道記念館駅」から列車が出発します。10時の始発に乗りましたが、外国人観光客を中心に乗車待ちの方が多く並んでいました。
これから乗車する列車は、2両編成のトロッコ列車の北九州銀行レトロライン「潮風号」。九州鉄道記念館駅から門司港エリア北部の関門海峡めかり駅を結びます。途中、出光美術館駅とノーフォーク広場駅の2駅があり、全区間1回乗車300円です。もともと貨物線だった線路を廃止後に観光路線に転用し、平成筑豊鉄道の運行により2009(平成21)年に「潮風号」の運行が開始されました。関門海峡めかり駅のある和布刈(めかり)地区は、門司港駅からやや遠い場所にあります。バスもありますが、「潮風号」の運行で大きく観光の利便が向上したのです。出発駅である九州鉄道記念館駅には、その名の通り九州鉄道記念館があるのですが、そちらはまたあとで訪問します。
トロッコ列車は非常にゆっくりとした速度で進みます。約2.1キロメートルの区間を時速約12.6キロメートルで10分ほど。自転車並みの速度で、同社によれば日本一遅い鉄道なのだそうです。乗車中はしっかり沿線の観光案内をしてくれます。ノーフォーク広場駅と関門海峡めかり駅の間にあるトンネル内では、天井にイルミネーションの演出もされて観光客を飽きさせません。
●北九州銀行レトロライン「潮風号」
運行区間:九州鉄道記念館~関門海峡めかり駅間
運行時刻:10:00~17:00(ダイヤは公式HPで要確認)
運行日:元日を除く土・日・祝日、8月13日~8月15日
運賃:大人300円、子ども150円
門司港レトロの最寄・出光美術館駅
最初の停車駅は出光美術館駅。古いレトロな建物が立ち並ぶ門司港レトロエリアの最寄り駅です。JR門司港駅にも観光スポットがあるので、門司港駅から門司港レトロエリアを観光しつつ、歩いて出光美術館駅に向かう利用方法がベターだと思います。
門司港レトロエリアは、明治から大正時代に建てられた古い建物が数多く立ち並びます。門司港駅の目の前に位置する旧門司三井倶楽部は、1921(大正10)年に三井物産の社交場として建てられました。国内外の経済界の重鎮が集い社交会を開いていたことから、当時の門司港がいかに重要な地であったかを窺い知ることができます。旧大阪商船門司支店は門司から多くの商船が出航していた1917(大正6)年の建築物。現在、内部は北九州市で育ったイラストレーター・わたせせいぞうさんのギャラリーになっています。ブルーウィングもじは、関門海峡と第一船溜まりの間に造られたはね橋※1。1日6回橋が上がるのですが、今回運よく車窓からその姿を見ることができました。そして土産物店海峡プラザの前で一際異彩を放つバナナマン。お笑い芸人のバナナマンさんとは関係なく、門司港がバナナの叩き売り発祥の地であることから像が置かれています。触ると様々なご利益があるそうなので、ぜひ触ってみてくださいね。
※1可動式の橋のこと。橋を上げ下ろしすることで通行制限をする役割をもっている
ノーフォーク広場では関門海峡の風を感じながら散歩を
海沿いを走りだしたところで停車するのが、ノーフォーク広場駅。ノーフォーク広場はこの周辺に整備された海の見える美しい公園で、ベンチに座ってのんびり海を眺められるほか、所々で釣りを楽しむ人が見られるとてものどかな場所でした。関門海峡めかり駅までは海岸沿いに歩いて18分ほどですのでここで下車して散歩するのもおすすめです。
関門橋を間近に見つつ歴史ある神社に参る・関門海峡めかり駅
九州鉄道記念館駅から10分で終点、関門海峡めかり駅に到着しました。ここから和布刈公園の展望台や先ほどお話ししたノーフォーク広場方面に向かう人が多くいます。私も海岸線沿いを歩き、ノーフォーク広場方面に戻ってみることにしました。
関門トンネル専門の機関車・EF30。
かつて関門海峡を走っていたEF30がひっそりと余生を過ごしていました。関門トンネル内と九州線内は電化方式が異なります。双方を走れる機関車が必要なことや関門トンネルの勾配を走破できる性能を持つ機関車が必要だったことからこの機関車が造られ1961(昭和36)年に運転を開始しました。全国でもここでしか見られなかった機関車で1987(昭和62)年まで活躍しています。現存するのはここと、群馬県横川町の碓氷峠鉄道文化むらの2つだけです。
和布刈公園から続く海岸沿いの遊歩道を歩いていけば、関門海峡を渡っていく船とすれ違うようになります。関門海峡は非常に狭いですが、極めて重要な航路なので大きな船が間近で海峡を航行していくダイナミックな光景が見られるのです。和布刈神社は今でこそ関門橋の下に位置する神社として観光客が集まりますが、1800年も前から関門海峡に向かって建ち、瀬織津姫という月の女神が穢れを払い、潮の満ち引きを司るとしてここに祀られている小さいながらも歴史のある神社です。
関門海峡を歩いて渡る!?
さて、みなさんは関門海峡を渡るとき何で渡ろうとするでしょうか。新幹線、JR、自家用車、あるいは船かもしれません。関門海峡は、「歩いて」渡ることができるのを知っていますか?
その入り口となるのが和布刈神社のそばにある「関門トンネル人道入口」。門司港レトロ地区からは離れているため、さっき乗ってきた「潮風号」の利用が便利です。
人道トンネルの利用は6時~22時。人は無料ですが、自転車やバイクは20円の利用料が必要です。全長は約780メートルなので、10分ほどで踏破できてしまいます。改めて関門海峡って狭い、と思ってしまいますね。トンネルの中を歩いていくとほぼ中間地点で福岡県と山口県の県境が現れます。海の下で県境を跨ぐという貴重な体験をすることができる場所です。下関側の出口は平安時代に壇ノ浦の戦いが行われた場所で、みもすそ川公園となっています。下関駅まではバス利用になりますが、せっかく歩いて本州まで来たのでこちらの観光も楽しみたいところです。
唐戸市場から船で門司港に戻る
みもすそ川公園から下関駅方面のバスに乗り、唐戸市場で降ります。門司港に戻りたいのですが、下関駅から電車に乗ると門司港駅には行かず遠回りになってしまいます。そこで利用したいのは船。唐戸市場はふぐの市場として有名ですが、ここから門司港に向かう船が出ているのです。ここでふぐを食べてもいいのですが、今回は門司港名物のあるものを食べたいので残念ですが見送ります。
船での関門海峡の旅は約5分ですが、向こうに門司港の街並みや、関門橋の姿を見ることができます。トンネルを通る鉄道では味わえない景色を見ることができました。ただ、オープンデッキはかなり水しぶきが飛びます。それもちょっとしぶきがかかったという程度ではなく、結構海水が……。天候にもよると思いますが、乗船する際はご注意を。
九州の鉄道の歴史を知る・九州鉄道記念館
九州鉄道記念館は1891(明治24)年に建てられた煉瓦造りの旧九州鉄道本社社屋を転用して2003(平成15)年にオープンしました。九州の鉄道の紹介やジオラマの展示、かつて九州を駆け抜けた鉄道車両の展示などが行われています。
主に関門トンネルの走行に使われたEF10形機関車は、現存する唯一の車両。戦時中に本州と九州間の輸送を担う重責を果たしました。東海道新幹線開業後、新大阪駅から博多駅までを結んだ寝台特急「月光」のベッドは、昼間は座席として使用できるという昼夜兼用の画期的な車両でした。ほかにもSLや戦前の気動車なども展示されており、ここにいるだけで130余年に亘る九州の鉄道の歴史を存分に感じることができます。
◆九州鉄道記念館
住所:福岡県北九州市門司区清滝2丁目3番29号
電話:093-322-1006
営業時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日:不定休(年9日程度あり)
入場料:大人300円、中学生以下150円、4歳未満無料
旅の締めは門司港発祥の「焼きカレー」
門司港エリアの観光を存分に楽しんだあとは名物「焼きカレー」でお腹を満たしましょう。カレーにチーズを乗せてオーブンで焼く「焼きカレー」は、昭和30年代に門司港のレストランが最初に考案したといわれています。これがヒットして門司港レトロ地区には数多くの焼きカレーを提供する店があるのですが、今回は門司港駅近くにある「ukiwa」へ。
カレーはやや甘め。唐揚げが名物で、トッピングでオーダーしたのですがこれがジューシーでとても美味。カレーはややこぶりなサイズなので唐揚げをトッピングしてもペロリといただけます。歩き疲れた体もエネルギー回復しました。
◆ukiwa
住所:福岡県北九州市門司区西海岸1-4-16 2F
電話:093-287-4353
営業時間:火・水・木・金・土曜日は11:30~14:30 18:00~22:00、日・祝日は11:30~14:30
定休日:月曜日
おわりに
最後はバナナマンでお別れ。
交通の要衝として早くから鉄道が敷かれ、日本の玄関口として大いに発展してきた門司港。今回はトロッコ列車のほか徒歩で海峡を渡り、船も使って門司港観光を存分に楽しみました。九州に来られた際はぜひ門司港に立ち寄ってかつて栄華を極めた港町を訪ね歩いて見てください。