「宇都宮餃子」を全国に広めた仕掛け人・鈴木章弘氏に聞く!名物をバズらせる秘訣って?
「栃木県宇都宮市といったら?」「餃子!」ですよね??
今や“餃子の町”が定着した宇都宮ですが、かつては地元民にすら「餃子なんてダサい」「そんなの広めたくない!」と散々ディスられ反対されていた時期があったのだそう。
そんな逆境から一転、今や誰もが認める餃子ブランドを確立した宇都宮市。一体どんな手を使ったんだ!? 知りたいッ……!!
ということで、宇都宮餃子の仕掛け人である「宇都宮餃子会」の事務局長・鈴木章弘(あきひろ)氏に、餃子の町を広めた戦略や秘策をたっぷり伺いました。めちゃくちゃためになる内容です!
写真:旅色編集部・福井麻衣子
目次
宇都宮餃子のPRから地域活性化、グッズやイベントのプロデュースまで、宇都宮餃子に関するありとあらゆる業務をまるっと担うのが「宇都宮餃子会」です。そんな「宇都宮餃子会」の顔でありブレーンでありレジェンド(!)である事務局長・鈴木章弘さんに、宇都宮餃子の誕生から、圧倒的にブランドを確立した現在までのお話を聞きましたよ。
東京都出身、宇都宮市育ち。宇都宮餃子をこよなく愛し、「宇都宮餃子会」の事務局長として、PRやメディア対応、イベント出演など幅広い業務をこなし、餃子の魅力を全国に広める。
宇都宮のレジェンドに学ぶ、宇都宮餃子の歴史
ーー宇都宮といったら餃子の町、そんなイメージを全国に広めたレジェンドにお話を聞けるなんて光栄です。鈴木さんの功績がスゴすぎて、宇都宮ヒエラルキーの頂点だとか、なんなら市長より影響力があるとかないとかいろいろ聞くのですが……。
鈴木「いやいや、僕はゼロからイチを作ったわけではなく、イチを掛け算してる人間なんです。宇都宮餃子のイチを起こした人たちが偉大なんですわ!」
ーーレジェンドがすごい謙遜を。今日は宇都宮餃子の誕生から全国に広めた秘訣まで、ぜんぶ教えてください!
鈴木「はい、まず、宇都宮餃子の起源は戦後ですね。市内にあった陸軍第14師団が中国に出兵して、餃子の作り方を覚えて帰ってきた説と、満州に派遣されて満州鉄道を作っていた民間人が帰ってきて餃子店を開いた説があって。そこから広まって、僕たちが子どもの頃には当たり前に餃子店がありましたね」
ーーそんな歴史があったんですね。中国で覚えてきてくれた先人に感謝。そういえば、栃木って日本有数の麦の生産地ですよね。それも関係ありますか?
鈴木「そう! もともと栃木は麦の生産量が多かったのと、宇都宮には軍があって野菜や養豚などの食料インフラが安定していたから、餃子の原材料が手に入りやすく作りやすい環境が揃っていたんです」
ーー餃子の町は生まれるべくして生まれたのですね。
観光客ゼロで大ピンチ……ひらめいた「餃子で町おこし」
ーー戦後に餃子を広めた人たちのおかげで、宇都宮の人たちが餃子を食べるようになった。でもまだ地元の名物レベルですよね。そこからどうやって全国に広まったんですか?
鈴木「全国区になるきっかけは、市役所の職員なんです。当時、宇都宮で唯一の観光地といわれていたのが大谷町(おおやまち)。大谷石っていう建材が採れる場所で、よくいえば“日本のグランドキャニオン”みたいなスポットで」
ーー大谷町、行ったことあります! 大谷石の岩壁はダイナミックで見ごたえあるし、大谷資料館はダンジョンみたいで楽しいし、いいところですよね。
鈴木「そう、その大谷町ね。昔はたくさんの観光客がバスツアーなんかで来てたんだけど、91年に地下が大きく陥没してしまって。その頃は毎日メディアのヘリが飛んでて、“危険なまち、危険なまち”とネガティブキャンペーンをされて、観光客がまったく来なくなってしまったんです」
ーーえ、今は穏やかなイメージの大谷町ですが、そんなことがあったんですね。しかも唯一の観光資源がネガキャンされて大ピンチじゃないですか……。
鈴木「そのときに、何かないかと模索していた宇都宮の職員が、『日本一餃子を食べているのは宇都宮』という統計データを見かけて。これはおもしろいのでは? 餃子で町おこしをしよう! と、観光課が動き出したんです」
ーー餃子の町おこしは大谷町のピンチからひらめいたんですね。いよいよ餃子で町おこし編、スタートですね!
「餃子なんてダサい」から市民が誇る餃子の町へ
ーー宇都宮市の「餃子で町おこし」といえば、食による町おこしの代表事例、成功例のようにいわれてますよね。はたから見たら順風満帆のようなイメージですが、実際はどうでしたか?
鈴木「観光課が動き出した『餃子で町おこし』だけど、『行政の予算使って餃子なんて、ふざけすぎだろ!』という理由で、庁内から反対されるんです。それでも、当時の観光課の係長の沼尾さんという方は、餃子には光明があると信じていて。庁内じゃなく、民間の餃子店に呼びかけを始めたんです」
ーーえっ、庁内では反対されてたんですね。沼尾さんつら……。
鈴木「沼尾さん、定時後に各餃子店を周って、餃子を食べては『一緒に餃子で町を元気にしませんか』って2年間くらいしつこく歩いたんですよ。はじめは乗り気じゃなかった餃子店も、沼尾さんのあまりの熱意としつこさに根負けして、当時の『みんみん』の社長が協力することになって。それが『宇都宮餃子会』ができたきっかけです」
ーー2年間!? よくめげなかったですね。私だったら2週間で心折れてるわ。「みんみん」は宇都宮餃子を象徴する名店ですよね。沼尾さんの熱意が伝わってよかった!
鈴木「そうしたらチャンスが訪れて。当時って県内にテレビ局はなかったし、東京のテレビしか見れなかったので、地元の動きなんか誰も関心事にしなかったんですよ。そんなとき、人気タレント・山田邦子さんがたまたま番組で宇都宮に来ることがあって、テレビ局の人がロケハンで市役所にやってきたんです」
ーーそこで沼尾さんがテレビ局に売り込んだんですか??
鈴木「そう! 宇都宮は餃子の町なんです! って必死に売り込んだら、TV局の方も、こんなに熱意がある職員がいるんだっておもしろがってくれて。山田邦子さんもノッてくれて、7週に渡って宇都宮餃子が取り上げられたんです」
ーー沼尾さーーーん!(涙)
鈴木「そうすると、タレントさんたちやテレビが来て、地元の人たちも湧き上がってくる。それまでは『餃子で町おこしなんてダサいからやめてくれ』ってネガティブな意見ばかりだったのに、東京のテレビ局が食いついてきた瞬間に、『餃子ってイケてるのかも?』って認識が変わってきて。僕たちが当たり前だと思っていた餃子専門店も、ここにしかない特別なものだったってはじめて分かったんです」
ーーたしかに、餃子って中華料理店には必ずあるけど、専門店が建ち並んでいるのは珍しいですよね。
鈴木「それから山田邦子さんの発案でイベントをやったり、駅前に餃子像をつくったり」
ーーあの餃子像は山田邦子さんの発案だったんですね!
鈴木「メディアの力って大きくて、『餃子の町』なんて聞いたことないからひと目見に行こうと、全国から観光客が増えていったんです」
震災でふたたびピンチに!第三次町おこしへ
ーー沼尾さんの熱意と、メディアの影響力によって餃子の町のイメージが全国に広まっていったんですね。そこからは敵なし状態でしたか?
鈴木「いえいえ、ようやく『餃子の町』が浸透してきたと思ったら、2011年に東日本大震災が起きてしまって。それまでは餃子屋さんたちが片手間で回していた『宇都宮餃子会』が、震災の影響で手が回らなくなってしまったんです。せっかく根付いてきた宇都宮餃子ブランドが、このままだとなくなってしまうかも……という状態でした」
ーー震災の影響でまたピンチに。
鈴木「当時、僕は自分で広告代理店をやりながら片手間で『宇都宮餃子会』に関わっていたんだけど、震災をきっかけに自分の会社は社員に渡して『宇都宮餃子会』にどっぷり入ることにしました。このままだと宇都宮の希望がなくなってしまう! という直感があって、迷うことはなかったですね」
ーー鈴木さんが「宇都宮餃子会」の顔になったのは、震災がきっかけだったんですね。そこからどうやってまた宇都宮餃子を盛り上げていったのでしょう?
鈴木「思えば、戦後の貧しいときに餃子が広まって宇都宮が発展して、大谷地区が陥没して観光がしんどいときに餃子で町おこしが始まった。宇都宮が苦しいとき、いつも餃子があったんです。なので震災を乗り切るために、餃子で『第三次町おこし』をしようと、宇都宮の佐藤栄一市長に提案したらノッてくれたんです。市長も餃子に思入れがある人だったから『餃子でもう一度宇都宮を元気にしよう! 休日でも職員借り出すから』って言ってくれて」
ーーやっと市をあげて餃子の町おこしにエンジンがかかったんですね! 沼尾さんが最初に立ち上げたときは塩対応だったのに……感慨深い。
餃子消費量1位の奪還へ。毎日餃子の話題を発信
鈴木「それから一番はじめに手掛けたのが『餃子消費量1位の奪還』でした。震災の影響で、15年続いていた1位を落としたんです」
ーーえ、でもこの消費量ってスーパーで買ったお惣菜餃子のことですよね。鈴木さんたちの「宇都宮餃子会」は餃子専門店の集団なので、スーパーでいくら餃子が売れようと関係ないのでは?
鈴木「そう! 本来我々がやるべきことではないんだけど、『失われた1位を取り戻す』っていう分かりやすい目標があると盛り上がるじゃない。それで大々的にキャンペーンを打つことにして、イベントをやったり、餃子アイドルを立てたり、『食卓に餃子を』っていうポスターを作ってスーパーやコンビニに貼ってもらったり。いろいろやって、2014年に3年ぶりに餃子消費量1位を奪還しました」
ーー地元の人からしても、15年も続いた1位を落としたのはちょっと悔しいですよね。じゃあ餃子を買って奪還に貢献するかーって気になりそうです。そこからずっと1位ですか?
鈴木「ううん、そこからまた落ちたけど、一回奪還しちゃえばもういいの! 1位奪還キャンペーンは『震災があったけど宇都宮は元気だよ!』って狼煙を上げる行為だから。宇都宮が今こういう活動をしてるっていうプレスリリースを出しては取材をキャッチして、っていうのを繰り返してました」
ーー1位奪還は目標じゃなく、あくまで宇都宮の活気をアピールするための手段だったんですね。
鈴木「そう。毎日、どこを切っても宇都宮から餃子の話が出てくるっていう状態にしたかったんだよね。だから、イベントだけじゃなくて、食品メーカーとコラボして宇都宮餃子とのコラボ商品を作ったりとか、グッズを作ったりとか。宇都宮から常に餃子の話題が発信されるように、毎日なにかやってましたね」
ーーすごい。もはや広告代理店の動き!
若い女性を取り込むために中華要素を徹底排除
ーー震災以後、餃子消費量1位奪還キャンペーン以外で力を入れていたことはありますか?
鈴木「ずばり、ライトユーザーを狙うこと。餃子を食べにくることがなかった若い女性が『餃子が好き』って言える時代になったら、流行りじゃなくて文化に変わってくると思って。若い女性が動くと、男性も必ずついてくるから」
ーー若い女性に受け入れられるために、どんな方法を!?
鈴木「自分が広告屋だったからだけど、まずはコーポレートアイデンティティの設定から。当時は餃子って若い子たちが食べるものじゃなかった。それを、若い女性が好んで食べる時代にしたかったから、まずはネガティブな要素を全部洗い出しました。ニンニク臭い、脂っこい、カッコ悪い……みたいなイメージを払拭するために、中華のイメージを徹底的に排除することにして」
ーーコーポレートアイデンティティはググります! そういえば、昔は餃子って中華料理店にあるもので、なんとなくおじさんっぽいイメージだったかも。
鈴木「だから中華の餃子じゃなくて、『宇都宮餃子』っていうブランドを作ろうと思ったの。例えば、どんぶりのぐるぐるっとした雷文(らいもん)の模様とか、龍の柄、筆文字、金赤の色とか、そういう中華っぽいイメージは全部排除! グルメ誌なんかで紹介してもらうときは、編集者にかけあって中華風デザインを避けてもらって、書体もこっちで指定してました。そういうイメージ戦略がボディブローみたいにじわじわ効いてくると思って」
ーーいわれてみると、「宇都宮餃子会」が出している公式ガイドブックも中華っぽさゼロ。誰でも手に取りやすいシンプルでおしゃれなデザインですね。
「餃子の数値化」は何のため?
鈴木「あとは、このガイドブックにも載せてるんだけど、餃子を徹底的に分解するために『餃子の数値化』をしました」
ーー餃子の数値化???
鈴木「お店ごとに、野菜と肉の比率とか皮の厚さとか、1個あたりのグラム数とか。例えば『宇都宮みんみん』の特徴は? って聞かれたら、野菜対肉が7.5:2.5で、皮の厚さが1.0mmでって」
ーーもしかして、全部のお店(宇都宮餃子の加盟店は84店舗)の餃子の数値、言えますか!?
鈴木「だいたい言えるよ! お店ごとの数値を公開することで、食べた人が『私が好きなのって皮薄めで野菜多めなのかも』ってわかってくるじゃない。ほかのお店を見たときに、数値が近いからここも好きかもって誘導したいんです」
ーー策士すぎる。
鈴木「たくさんある宇都宮餃子のお店のなかで、『宇都宮みんみん』が一番スタンダード。みんみんを基準に食べ比べると、違いがわかりやすいんです。そもそも餃子なんて全部同じでしょって思うじゃない? ところが食べ比べてみると、肉がゴロゴロ入ってたり、厚めのモチモチ皮だったりして、店によってこんなに違うんだってわかる。食べる前から違いを見せて、脳内でシズル感を出すための数値化なんです」
ーーもう策士すぎて怖い。この数値、野菜対肉が0.5:9.5とか極端なところもあって、見ているだけで楽しいですね。
鈴木「この数値って、それぞれの店主も知らないというか、いちいち皮の厚さまで計ってないんですよ。で、皮が薄いのに『うちのは皮が厚いんだよね』って言ってたりする。だから、こうやって数値化して相対評価することで、いやあなたのとこ皮厚くないから。それセールポイント間違ってるよってアドバイスもできるんです」
ーーこの数値を元にお店のコンサルもされてるんですね。
鈴木「うん、します。うちこうなんだよねって言ってるけど、ほかと比較して矛盾してる場合は指摘しますね。例えば、家庭的ってうたってるのに、作り方見ると全然家庭的じゃなかったり。だったら、『小籠包みたいな作り方』とか、聞いただけでおいしそうって感じる特徴をポイントをにしたほうがいいからね」
ーーすごい。広告屋からコンサルまで自前でやっちゃっている……!
バズるグッズ作りの秘訣とは
ーー「宇都宮餃子会」で作っているオリジナル餃子グッズも、たびたびバズってますよね。コロナ禍で「餃子マスク」が話題になったり、某アイドルが「餃子ポーチ」をTVで紹介して一時は入手困難になったり。これらも鈴木さんプロデュースと聞きましたが、ずばりヒット商品作りの秘訣を教えてください。
鈴木「グッズ作りはシンプルに、自分で使いたいかどうか。あとは考えているときの自分の熱量かな。これは絶対に作りたいと思うか、ちょっと違うと思うか。迷ったらやめます。餃子マスクなんかは、コロナ禍のマスクを外せないという状況下でパブネタにもなりやすいし、絶対イケると思いましたね。当時完成した瞬間に知り合いのタレントさんたちに送りました」
ーータレントさんに送って使ってもらうとか、本当に自前で代理店やっちゃってますね。餃子ってモチーフ的にもかわいいから思わず写真を撮ってSNSに上げたくなるし、こんなん絶対バズるわ。
鈴木「餃子、かわいいよね? 僕はずっと餃子はかわいいと思ってたけんだけど、昔はバカにされてたんだよね。餃子ポーチも、最初は絶対こんなの売れないって言われてたんだけど、いまだに年間1万個売れてるからね!」
ーー餃子ポーチ、私も一目惚れして愛用してます。かわいいし、リップとかちょっとしたものを入れとくのにちょうどいいんですよね。ほかにも人気のグッズはありますか?
鈴木「餃子の3WAYブランケットも人気だね。まるめると餃子の形のクッション、広げるとひざ掛けとポンチョになるアイテムで、便利だしかわいいでしょ」
ーーふつうに実用的。なんだか手掛けたグッズが全部ヒットしている気がするんですが、失敗したものもありますか?
鈴木「出張に持っていける餃子型のボストンバッグが欲しくて、何度もサンプルを作ったんだけど、自立させようとするとどうしても肉まん型になっちゃって。さすがに心が折れて諦めました(笑)」
ーー餃子って片方がふっくらしてて片方は平らですもんね。たしかに両側につけると肉まんかも……。ちゃんと失敗談もあってよかったです!
思わず写真を撮りたくなる「餃子通り」の仕掛け
ーーえーっと、まだまだ聞きたいことがあります。先日餃子店が並ぶ「餃子通り」を撮影しに行ったのですが、街灯とかバス停とかマンホールとか、あらゆるところに餃子のモチーフがちりばめられていて、歩いていてすごく楽しかったです。餃子通りも鈴木さんプロデュースだとか!?
鈴木「そうそう、2018年にJRが栃木県でデスティネーションキャンペーンをやったことがあって、それきっかけですね。宇都宮って餃子では人が来るけど、着地型の観光ポイントがなかなかない。そんなときに、観光者が『ここを目指してくる』っていうスポットを作りたい、っていう相談があったんですよ」
ーーそれで、餃子通りを整備して、思わず見に行きたくなる仕掛けを作ったんですね。
鈴木「当時あの通りに餃子店が並び始めてたから、『餃子通り』っていう名前にしてプロモーションすることになって。まずは歩行者が歩くグリーンベルトを餃子色にしてやりました」
ーー言われてみれば、餃子色だ!(ここの色って変えていいんだ)
鈴木「あとは、東京電力に協力してもらって電柱の立体看板を作ったり、マンホールを作ったり。世界観作りに細部までこだわりました」
ーーどれも思わず写真を撮ってSNSに載せたくなります。餃子の街灯もおもしろいですよね。
鈴木「あれね、たまたま出張で恵比寿を歩いてたとき、夕方になってぱっと街灯が付いたんですよ。そしたら、ジョッキ型の街灯にビールが注がれたみたいになって。うわーおもしろい! と思って、写真撮って『これ餃子で作ろうぜって』すぐ市役所の職員に送りました」
ーーあの餃子は、恵比寿の街灯からインスピレーションを受けていたんですね!
鈴木「餃子の形も、機械握りじゃなくて手握りしたような、昔ながらのふっくらした形にこだわりました。恵比寿のジョッキみたいに、街灯がつくと焼き目がオレンジ色に光るようにしたのもこだわりです」
ーー鈴木さんの生み出すアイディアがいちいちすごすぎるのですが、一体どうやったらそういう発想ができるんですか?
鈴木「それは、常にいろんなことが気になっているから! 自分の目の中に入るものがみんな気になるんですよ」
ーー目に入るもの全部!? 仕事関連ならともかく、関係ないことだとスルーしてしまいがちですが……
鈴木「いやいやいや、全部関係あるから。若い人たちが今どんなものに興味を持っているのか、常にヒントをキャッチしたいし。グッズを作るにしろ、昔よくあったペナントなんかは今誰も買わないじゃない? 若い人たちが身につけたり、手に持ってくれるグッズで餃子を表現できたら、生活圏内に餃子を進出できる。だから、常にアンテナを張ってます」
ーー勉強になります……! 日々目にするあらゆるものからのインプットが、餃子の町づくりに活かされているんですね。
名実ともに日本一の餃子の町にしたい
ーー鈴木さんの餃子にかける熱量と愛がとにかくハンパないことがわかりました。そんな鈴木さんが掲げる最大のミッションってなんですか?
鈴木「最初は餃子のPRが入り口だったけど、だんだん自分の中の地元愛に気づかされて。だから僕は、餃子を通じて宇都宮自体を売り込むことをミッションにしています。今は餃子だけでなく、最近開業したLRT(次世代型路面電車)だったり、宇都宮のすべての案件が僕のとこにくるんです」
ーーやっぱり宇都宮のレジェンド超えてドンなのでは……。最近は地方移住の関心も高まっていますが、宇都宮にも移住者を増やしたいという思いもありますか?
鈴木「もちろん、宇都宮の観光誘客もだけど、住む人も増やしたい。ただインナーブランディングを先にやっても、地元の人たちってまだ東京を見てるんです。だから、アウタープロモーションを先行してやって、うまく波に乗ってきたらインナープロモーションに力を入れる。そうすると、外からの波が伝わってきたときに、内側の波がしっかり返ってくると思ってます」
ーーインナー……またマーケ用語出てきたけどつまり……(どゆこと?)
鈴木「つまり、宇都宮餃子がメジャーなテレビ番組やメディアを誘致して盛り上がるのは、地元の人の評価にもなるから力を入れていく。でも地元の人たちは餃子を並んでまで食べないから、スーパーに冷凍餃子を並べて買いやすくする。そうすると、『俺餃子焼くのうまいんだよね』って自負する人が増える。餃子を地元の人にとって身近な存在にしないといけないから、来店しないなら家で焼いてもらうって感じ」
ーーなるほど~外へのプロモーションだけでなく、内へのプロモーションも大事にしないと、地元で愛される存在にならないってことですね。
鈴木「そうそう。僕は10年前からずっと『餃子の焼き方マイスター制度』を作りたいって言ってるんだけど、現場がぜんぜん追いつかないんだよね。焼き方マイスターを講習したら、宇都宮餃子会公認のヘラを持てるようにして。『うちの父ちゃん焼き方マイスターのヘラ持ってるよ』って言いたくなるじゃない?」
ーー焼き方マイスター、持ってたら自慢できそうですね。肩書にする芸能人いそう。実現楽しみにしてます。ほかにも「宇都宮餃子会」の野望があったら教えてください!
鈴木「名実ともに日本一の餃子の町にすること。今はネームバリューが先行してると思ってるんです。ふつう飲食店って呼び込みとかしないといけないよね。でも、宇都宮の餃子店って何もせずとも毎週お客さんがたくさんいらっしゃる。とてもありがたいんだけど、これに溺れちゃいけない。味も品質もサービスも、『さすがだよね』っていわれる店を目指すことが必要だと思ってます」
ーーえ、まだ足りないところがあるんですね。例えばどんなところです?
「言ったらきりがないけど、接客、サービス、焼き方、営業時間とか。僕は『宇都宮餃子会』の事務局長だけど、餃子屋ではなくて、消費者の代表っていうポジションなんです。その立場から、加盟店に厳しく言うこともありますね。『知名度が先行していて、まだまだ中身が伴っていないから、日本一の餃子の町を本気で目指しましょう』って」
ーーまだまだ高みを目指しているのですね。鈴木さんたち「宇都宮餃子会」の熱意もすごいですが、よく考えるとそのアイディアを受け入れて実現していく宇都宮市自体もすごく柔軟では。
鈴木「宇都宮って地方都市の中ではすごくチャレンジしてる町。『スーパースマートシティ』っていう構想を掲げていて、地域内での経済循環やゼロカーボン、移動のしやすさなんかを目指している。LRTの開業もその一環だし、今後もどんどん進化していくと思う。僕たちは餃子の町をプロモーションして来訪者を増やしていくのと合わせて、移住定住のきっかけ作りにも力を入れたいですね。宇都宮って、地価も物価も安いし、東京にも近いしちょうどいいですよ!」
ーー宇都宮に餃子目当てで来て、住みたくなる気持ちわかります。都会だけど東京ほどごみごみしてなくてきれいだし、餃子以外にもおいしいお店いっぱいあるし、大谷とか雰囲気のいいエリアがあるし。住みやすそうだな~と思いました。本日はとてもためになるお話をありがとうございました!
戦後に餃子を広めた先人から始まり、餃子で宇都宮のピンチを救おうと奮闘した市職員の沼尾さん、震災で再度のピンチから宇都宮餃子のブランドを確立した鈴木さん率いる「宇都宮餃子会」と宇都宮市。宇都宮のあらゆる方の努力とチャレンジによって、宇都宮餃子は一時の流行から文化に発展して根付いています。もちろん文化の定着には長いスパンが必要ですが、熱量(と愛)を持って常に挑戦し続けることの大切さを改めて気付かされました。
というか、紆余曲折がドラマすぎて映画化できそう。
おまけ:餃子実食&餃子ガチャをやってみた
インタビュー終了後、鈴木さんを見習って日々アンテナを張ってインプットせねば……と思いつつも、死ぬほど餃子の口になってしまった我ら撮影班。「宇都宮餃子会」の事務所とおなじく、MEGAドン・キホーテ宇都宮店のB1階にある「来らっせ 本店」で餃子を食べ比べてきました!
「来らっせ 本店」では、「宇都宮みんみん」や「香蘭」などの有名な常設店のほか、日替わりで30店舗以上の餃子を味わうことができます。しかも一皿360円~とリーズナブル。
鈴木さんが言っていた餃子の数値を意識しつつ、みんみん基準に食べ比べてみると、「香蘭はちょっと皮が厚くてもちっとしてるかも」「龍門は肉を感じる気がする」といった違いが分かりやすく、なんだかマニアになれた気もしてより楽しいひとときに。各店舗の餃子の数値、食べる前にチェックするのをおすすめします!
各店の餃子キーホルダーが出てくる「餃子ガチャ」(1回300円)もやってみましたよ。
私が当てたのはキャベツ……ではなく「餃天堂」の水餃子(笑)。いや悔しい。せめてノーマル餃子型がほしいわ!
ちなみに4人でやったところ、キャベツ率脅威の1/2。多すぎるだろ!
というわけで、近々リベンジしに行きたいと思います。
宇都宮って餃子以外にも、LRTや雰囲気の良いBAR、おしゃれなカフェが多い大谷地区、超きれいな竹林などなど楽しいコンテンツがいっぱいあるんです。旅色でもおすすめのモデルコースを紹介しているので、ぜひチェックしてみてくださいね。東京から新幹線で1時間かからんから、週末行って!