扉写真、文:佐藤 潮.(effect)
山路力也さん
1998年から新しい味を求めラーメン食べ歩きを開始。2008年、老舗の魅力に立ち返った「トーキョーノスタルジックラーメン」(幹書房)を上梓すると、ラーメン好きの間で「ノスラー」という略語が誕生。老舗を食べ歩く「ノス活」の文化も根付かせた、ノスラーブームの火付け役です。書籍、雑誌での執筆以外に「郷愁の街角ラーメン」(BS-TBS)の監修や出演、カップ麺のプロデュースなどを通じて、多角的に業界を牽引しています。
2020年9月オープン以来、連日スープが完売する人気店。元は27年続くイタリア料理店でした。「目指したのは、子供の頃から好きだった地元の醤油ラーメンです」と話すのは、生まれも育ちも台東区の店主、高畑浩さん。国産丸鶏、大山鶏身つきガラ、白菜だけを丁寧に煮出した清湯スープが味の中心だそう。「昔から、これが一番」とテーブルコショーをさっと一振り、完成です。
中華そば 高ひろ
住所/〒111-0051 東京都台東区蔵前3-16-3 シンエイマンション蔵前1F
電話/03-5809-3808
定休日/月曜日
営業時間/11:00〜14:00、17:45〜20:00、土曜日・祝日11:00〜15:00(スープ終了次第閉店)
アクセス/都営浅草線蔵前駅A0出口から徒歩約2分
駐車場/無
ラム肉やトリュフといった食材をラーメンに使用するなど、斬新な発想で進化を続けるMENSHOグループ。渋谷パルコという流行の発信地で、2021年から売り出したのがノスタルジックな醤油ラーメンです。「感度の高い若者が求めるもの」を意識したと語るラーメンクリエイターの庄野智治さん。伝統製法の醤油をブレンドしてもろみを強調したり、鶏の旨味を支えるためホタテを使用したり。最先端の技法を駆使し、昔ながらの味を表現しています。
Jikasei MENSHO
住所/〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO PART1 B1F
電話/03-5489-3880
定休日/無休
営業時間/ 11:00~22:30(L.O.22:00)
アクセス/各線 渋谷駅ハチ公口から徒歩約10分
駐車場/136台
愛され続ける味、それを再現した現代の味
両方味わうことで発見できる新境地もある
長年愛されている老舗の味は、現代の人気店と比較しても遜色なく美味しいものです。しかしながら設計そのものは、やはり一時代前のものがほとんどです。僕は『Jikasei MENSHO』の「醤油らぁめん」を食べた時、ふと荻窪『春木屋』を思い出しました。老舗の味をリスペクトしてアップデートされた食材と技術で再構築するという、新たな潮流が生まれる予感がした一杯でした。
「地元鹿児島には豚骨しかなくて……都会のラーメンはまったく違いました」と語る店主の中山紘二さん。2000年代前半に音楽活動のため上京し、新宿や渋谷で食べた味に大きな衝撃を受けたそう。池尻大橋『和利道』や赤坂『赤坂麺処 友』といった名店で多種多様なラーメンを作り続けた末、現在は中華そば一筋。「単純に好きな味を追求したら、なぜか懐かしいと好評で」と苦笑い。その気取らない人柄が、丁寧に作られた1杯にも表れています。
中華そば マルキ食堂
住所/〒155-0033 東京都世田谷区代田6-12-36 コーポサンリバー1F
電話/03-6804-8315
定休日/月曜日、第3日曜日
営業時間/ 11:00~15:00
アクセス/京王井の頭線、小田急小田原線
下北沢駅西口より徒歩約4分
駐車場/無
新店からただよう老舗の香り
歴史を繰り返しながらラーメンは進化する?
ラーメン好きの間で「ネオノス」という言葉が自然発生したため、その基準は誰にも分かりません。新しいお店のラーメンに何かしらの「郷愁」を感じれば、ひとまず「ネオノス」と言っても良いのではないでしょうか。しかし、今再びルーズソックスを履く女子学生が増えたり、80年代のシティポップが再びブームになったりと、ノスタルジックラーメンも含めて、若者にとっては「郷愁」抜きで自然に受け入れられているのでしょうね。
『つけめんTETSU』の創業者として、東京につけ麺カルチャーを浸透させた小宮一哲さん。彼が新しく手掛けた店舗は、銀座から築地あたりにあった「昔ながらの中華そば」をイメージしたもの。ポイントは醤油をキリッと立たせた鶏ガラ&豚ガラのスープ。八百屋が選んだ野菜を柔軟に取り入れるなど、あえてレシピを作り込まないことで「昔っぽさ」を演出しています。
築地の中華そば 伊蔵八
住所/〒188-0004 東京都東京都西東京市西原町4-2-9 コーナン西東京田無店駐車場内
電話/042-465-5383
定休日/無休
営業時間/7:00~10:00、11:00~23:00、日曜日・祝日9:00~23:00
アクセス/西武新宿線花小金井駅北口から徒歩約25分
駐車場/375台
懐かしくも新しいお店が増えて来た今こそ
ラーメンの魅力を再発見するチャンス
名店の味を意識したものなのか、それとも完全なオリジナルなのか。「ネオノス」と呼ばれるラーメンには、作り手の意図を探る「謎解き」のような面白さも詰まっています。チャーシューの切り方ひとつにしても千差万別。テクニックやバランス感覚を表現しやすいジャンルだと思いますので、作り手にとっても挑戦しがいがあるでしょう。懐かしいのに新しい「ネオノスラーメン」の流れは、今後も続くと思います!
和洋中の食文化がミックスされていた!?
実に奥深い東京のノスタルジックラーメン
「東京らしい」と言われる醤油ラーメンの老舗3店舗は、それぞれ別のジャンルからの影響が大きいです。浅草『来集軒』は中華料理の系譜、銀座『萬福』の初代は洋食出身で、荻窪『春木屋』は蕎麦の流れを汲んでいます。味わいもまったく異なるため、「昔ながらの醤油ラーメン」と一括りにはできません。そうした由来の違いを楽しむのも、ノスタルジックラーメンを食べ歩く醍醐味でしょう。