【倉方俊輔の建築旅】山口県宇部市で建築家・村野藤吾の個性を訪ねる旅

山口県

2023.07.27

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【倉方俊輔の建築旅】山口県宇部市で建築家・村野藤吾の個性を訪ねる旅

建築史家の倉方俊輔さんが案内する、建築をきっかけにその街を新しい視点で見つめる「建築旅」連載。今回は山口県宇部市で、村野藤吾が設計した建築を巡ります。長きにわたり活躍し続けた彼の、生涯をたどる旅に出ましょう。

目次

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渡辺祐策の功績を残すために建てられた「宇部市渡辺翁記念会館」(1937年)

市民の声を受けて残された「ヒストリア宇部」(1939年)

村野藤吾の最晩年の作品「宇部興産ビル」(1983年)

おわりに

渡辺祐策の功績を残すために建てられた「宇部市渡辺翁記念会館」(1937年)

宇部市渡辺翁記念会館

山口県宇部市には「宇部市渡辺翁記念会館」があります。名前の通り、記念的なホールです。「渡辺」とはこの地で生まれ、明治終わりから昭和はじめにかけて実業家として活躍し、長く衆議院議員も務めた渡辺祐策(すけさく)のこと。「翁(おう)」は、敬って付けた言葉です。

宇部市渡辺翁記念会館
宇部市渡辺翁記念会館
宇部市渡辺翁記念会館
宇部市渡辺翁記念会館

1934年に渡辺祐策が70年の生涯を閉じた後、地域発展に貢献した彼の功績を残そうということになりました。議論の結果、立派なホールを建設し、完成後に宇部市に寄贈することが決定します。渡辺祐策が設立した6つの会社が資金を出しました。宇部鉄工所、宇部紡績、宇部セメント製造、新沖ノ山炭鉱、宇部電気鉄道、宇部窒素工業で、現在は化学と機械を中心に多くの事業を行っているグローバル企業・UBE株式会社(2022年に宇部興産から社名変更)へと発展しています。

宇部市渡辺翁記念会館

設計を担当した建築家の村野藤吾は、渡辺祐策が設立した主要6社を、建物の前に立つ6本の柱で象徴しました。宇部市渡辺翁記念会館は1937年に完成し、宇部市の文化の拠点として今も使われています。“すっくと”並ぶ柱は、このホールが6社によって建設され、その奥に渡辺祐策の存在があることを記念しているのです。

そして、この“すっくと”という感覚が、建築としての見どころです。敬うべき人物を記念するとなると、建物は重々しくなるもの。これが建てられた第二次世界大戦前は、過去の偉大な建築を思わせるデザインが一般的な時代でしたから、特にそうなりがちです。でも、この建築は違います。

まずは6本の柱を観察することからはじめましょう。角が斜めにカットされ、断面は細長い八角形をしています。根本を見ると、それが外部階段の下でも上でもなく、段差の途中という絶妙な位置に置かれているのがわかります。

こうした操作によって、柱のまわりに何か動きのようなものが生まれていないでしょうか。柱は右側に3本、左側に3本。その間が透明なゲートになっているみたいです。6本の柱は威圧的なものではなく、遠くからも建物があることを目立たせながら、人を迎え入れる気分を高めています。

宇部市渡辺翁記念会館
宇部市渡辺翁記念会館

すっくと立っているのは、奥の壁も同じです。建物正面の壁はゆるやかに曲がっています。6本の柱の位置もこのカーブに従って、外向きに開いた動きをつくっていたのです。装飾らしい装飾がないのに、壁には存在感があります。大きいのは、深みのあるタイルが貼られていることでしょう。近づくにつれて、1枚1枚の色むらがはっきりしてきます。濃い茶色を中心にしながら、太陽の光の加減で紫色や白色にも映るのです。場所によって縦横の貼り方を変えたり、ところどころ出っ張らせたりといった細かな工夫も、その表面を見飽きないものにしています。

宇部市渡辺翁記念会館

こうして見ると、これが昔ながらの劇場や宮殿といった建築とはずいぶん違っていることがわかります。華やかな装飾に目を奪われるでもなく、大きな塊の感じで圧倒するわけでもありません。正面から捉えた時、ただ長く続く2つの面があり、その効果を6本の柱が高めているように見せているのが興味を引かれるところです。それによって揺るがない存在感と、使う人々が中心になる動きのある感覚を両立させています。

宇部市渡辺翁記念会館

当時において新しく、今も新鮮なデザインはこれだけではありません。当時の最新材料であるガラスブロックが、2枚の壁の間などに効果的に使われています。1階のロビーの太い円柱は、上が広がった形をしているのです。これは構造的な理由から来ていますが、独特の形を強調するように抽象画を思わせる色彩が施されています。ホール内部の大きさは完成当時、日本最大級を誇りました。ステージ脇などに凝った装飾が目に止まります。

宇部市渡辺翁記念会館は、第二次世界大戦後に通じる新たなデザイン感覚を、戦前らしい記念的な表現に持ち込んでいます。この頃だからこそできる、時代の記念となる建築なのです。2005年には国の重要文化財に指定されました。

◆宇部市渡辺翁記念会館
住所:山口県宇部市朝日町8-1
電話番号:0836-31-7373
※建物見学の際は事前に要問い合わせ

市民の声を受けて残された「ヒストリア宇部」(1939年)

ヒストリア宇部

宇部市には、他にも同じ設計者の作品があります。そのうちの一つ、「旧宇部銀行本店」は1939年に完成しました。その後、山口銀行宇部支店として使われ、一時は解体される予定でしたが、保存を求める市民の声の高まりを受けて、市長が保存活用を決定。2010年に「ヒストリア宇部」としてオープンしました。

ヒストリア宇部

2階が吹き抜けになった旧営業室は、外観からは想像できないほどに広くて明るい空間です。天井の八角形パターンも特徴的。現在、イベントホールなどに活用されています。

◆ヒストリア宇部
住所:宇部市新天町1丁目1番1号
電話番号:0836-37-1400
※建物見学の際は事前に要問い合わせ

村野藤吾の最晩年の作品「宇部興産ビル」(1983年)

宇部興産ビル
宇部興産ビル

「宇部興産ビル」は、1984年に93歳でこの世を去った村野藤吾が、その前年に完成させたものです。オフィスとホテルのある部分がL字の形をつくり、下では巨大な円柱が建物を支えています。ダイナミックな形と、外観を特徴づけている赤い花崗岩張りなどの素材に対する配慮、細やかな曲面が建築に他にない個性を与えています。

◆宇部興産ビル
住所:山口県宇部市相生町8-1
電話番号:0836-22-0033

おわりに

村野藤吾は戦前・戦後の激動を挟んで、約50年間も第一線であり続けた稀有な建築家でした。山口県宇部市はその足跡をたどり、活躍の秘訣に思いを馳せることのできる街なのです。

▶“ローカルの旅の魅力を発見する”「旅色FO-CAL」宇部市特集はこちらから

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#山口県 #建築旅 #宇部市 #夏休み #お盆

Author

建築史家 倉方俊輔

建築史家

倉方俊輔

1971年東京都生まれ。大阪公立大学教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築の価値を社会に広く伝える活動を行なっている。著書に『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社新書)、『東京レトロ建築さんぽ』(エクスナレッジ)など。Peatix「Kurakata Online」や「朝日カルチャーセンター」で、建築の見かたをやさしく学ベるオンライン講座も開講中。

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