埼玉県唯一のクラフトジン「棘玉」をつくる蒸留所が大切にしていること
埼玉県川越市といえば「COEDOビール」や、日本酒「鏡山」が有名ですが、実は国内では珍しい国産のオリジナル蒸留機によってつくられるクラフトジン「棘玉」も注目を集めています。「棘玉」をつくっている武蔵野蒸留所は明治創業の会社が立ち上げた埼玉県初のジン蒸留所で、こだわりの製法や材料でクラフトジンをつくっています。そんな武蔵野蒸留所には、「みらいくの森」という隣接する里山があります。なぜ、蒸留所に森があるのか。その理由と「棘玉」を作るうえで大切にしている理念を、武蔵野蒸留所プロダクションチームの大北拓真(おおぎたたくま)さんに教えてもらいました。
目次
武蔵野蒸留所とは
――まずは、武蔵野蒸留所について教えてください。
武蔵野蒸留所は近年注目されているクラフトジンをつくっている、埼玉県初のジン蒸留所です。1887年に酒類米穀販売店として創業し、1989年に有限会社マツザキを設立。その後、2019年に武蔵野蒸留所を開業させました。
――長い歴史を持っているんですね。作られているジン「棘玉」についても教えてください。
「棘玉」は、国産のオリジナル蒸留器でつくっているクラフトジンで、ジュニパーベリー(ネズの実)というハーブで風味づけをしたグレーンスピリッツを再蒸留したものです。ボタニカルな香りがふわっと香り、爽やかな飲み口が特徴です。ストレート、ロックで飲んでもおいしいですが、炭酸水、トニックウォーターなどで割るのもおすすめです。同じ敷地内にある店舗で販売も行っていますよ。
隣接する里山「みらいくの森」
――「みらいくの森」はどういった場所なんですか?
この森は、創業一族である松崎家が代々受け継いだ土地に加え、環境保全のために買収し広げた社有地を10年ほど前から緑化活動区域として整備した場所なんです。「万が一商店として食べられなくなった時に、将来の子孫が困らないように」という先人の思いがあり、ナラやケヤキ、ムクの木といった、古くは燃料(薪)として使われ、木材としても使用される樹木を多く育てているんです。
――後世のためを思って作られた森だったんですね。
実は、緑化活動をはじめるまでは木が生い茂る雑木林だったそうですが、「代々引き継がれた豊かな里山を守っていきたい!」という会長の松崎敦雄と社長の松崎裕大の考えのもと、緑化プロジェクトが発足したんですよ。この緑化プロジェクトで周囲を整備した結果、森や農園で棘玉の原料となるボタニカルの一部が育つようになりました。
――「みらいくの森」は一般の方も立ち入れるんでしょうか。
はい! 子どもたちが自然に触れ、環境の大切さを理解するための学びの場として提供しています。そのほか、地域住民が自由に散策できるようにもなっています。散策用のルートもあり、美しい新緑や夏の虫の声、秋の紅葉などを楽しんでほしいです。
森の中を実際に大北さんと散策
――森の中にはどんな植物がありますか?
森の中はナラやケヤキといった背の高い木が多く見られますが、足元にも注目してみてください。低い背丈の木がありますよね。これらはジンに使うジュニパーベリー、山椒やヤマブキ、柚子などです。松崎家が代々引き継いできた土地でジンの材料作りができないかと思い、植え始めたところぐんぐん育ったんです。それで、この場所は肥沃な土地だったことがわかりました。ですから、ジン作りに必要な植物をどんどん増やして育てています。ゆくゆくはこの森で育つものだけでジンが作れたらと思っています。
――敷地内で育つものだけでジンづくりができたらすごいですね! ほかにも注目ポイントはありますか?
散策ルートの途中にある、落ち葉の集積場を見てください。ジンの原料に欠かせないジュニパーベリーがあります。ここに置かれているのは蒸留し、使い終えたものなんですが、役目を終えたものはこうやって落ち葉と共に土に返して、やがて堆肥となり新しい樹木が育つ土壌になるんですよ。
――“すべて無駄にしない”というこだわりが伝わってきます。
そうなんです。自分たちの森で原料を育てジンを製造し、製造後は再び森に還って豊かな土壌を作る、という循環を起こしています。ほかにも、森で出た落ち葉で腐葉土を作り野菜作りも行っているんですよ。
先人の思いを受け継いだ森で作るクラフトジン
先祖たちが大切にしてきた森を活かすだけでなく、製造にこだわりを持ち、森自体も散策路にすることで、おいしいジン作りや地域住民へ還元をしている「武蔵野蒸留所」。こだわりを持ち続けた結果、「棘玉」は 2022年に世界的なコンクールで3つの金賞を受賞、2023年にはワールドジンアワードにて日本で最も優れたジンに認められます。また、緑化プロジェクトが「2021年彩の国埼玉環境大賞 優秀賞受賞」を受賞するなど取り組みが国内だけでなく、世界的にも認められています。お酒が飲める・飲めないにかかわらず、蒸留所が大切にしている森に訪れてみては。
◆武蔵野蒸留所
住所:埼玉県川越市中福547番地
電話番号:049-243-4022
「飲み旅-NOMITABI-チャンネル」も要チェック!
今回紹介した武蔵野蒸留所と「棘玉」は「飲み旅-NOMITABI-チャンネル」にも登場しています。「お酒とおつまみを楽しむ“飲み旅”から、その町を知る」をテーマに、町の魅力や飲み旅の楽しみ方を深掘りしていくYouTube番組で、毎週金曜日に放送。川越市編は5月26日から7月7日まで全7話で特集しています。お笑い芸人・はんにゃ.の金田さんと我が家の坪倉さんが「みらいくの森」を散策しつつ、「棘玉」を堪能しています。ぜひ、ご覧ください。