道民の歴史・日常を知る旅へ ご当地スーパー研究家・菅原佳己さんおすすめ、北海道スーパーの逸品4選
観光地での食べ歩きや話題の飲食店めぐりなど、旅先のグルメ探訪は楽しいものです。ただ、時には地元の人々が毎日のように食べている日常食を食べてみるのも、その土地の歴史や文化を知るきっかけになります。そこで訪れたいのは、地元食がたっぷり売られている場所、ご当地スーパー。そこには、あなたがまだ知らない、ディープな食の世界が広がっています。今回は夏の旅先で人気の北海道で、“いつも”の味を、ご当地スーパー研究家・菅原がピックアップしました。
Text&Photo:菅原佳己
目次
ブラジルと北海道ではコーラと互角の人気度を誇る「コアップガラナ」
黒い色をした炭酸飲料で少し薬草のような香りがする、さわやかな飲み物といえば……? 「コーラ」と答える方が大半かと思いますが、「ガラナ?」と思った人は、ブラジル人か北海道民のはずです。
日本各地に残る、ローカルな国産清涼飲料水誕生の逸話に登場するのが、昭和35(1960)年の貿易自由化によるコーラの本格上陸。“第2の黒船”と呼ばれる出来事です。危機感をもった全国の中小飲料メーカーが協力し、統一商標で様々な国産の清涼飲料水を開発した時代がありました。「コアップガラナ」もそのようにして生まれた商品です。国産清涼飲料水とコーラの戦いの結果は、すでにみなさんご存じのように、コーラの圧勝。誕生した多くの国産ものが力尽きるなか、今もコーラと互角かそれ以上に人気を得ているのが北海道の「コアップガラナ」です。
当時、世界の市場を席巻するコーラが唯一苦戦していたのが、ガラナが国民的飲料のブラジルでした。そこに着目した道南の飲料メーカー、小原(おばら)は、ブラジル大使館の協力を得て、北海道でコアップガラナを製造・販売。するとなぜか、日本のなかでも北海道だけで支持され、今では年間500万本(1本500 mlとして換算)を生産する人気飲料に。メーカーは人気の理由を「コーラの上陸が本州より2〜3年遅れたことで、ガラナが先に道民に定着したというタイミングと、道民好みの味わいだった、ということでは?」と推測しています。さらに、当時、同社コアップガラナの特約店だった「北酒蓮」(現・国分北海道)の全道の営業拠点を通して道内の隅々まで流通されたことも要因だったようです。
小原のガラナは函館近郊の横津岳(よこつだけ)の天然水と、北海道産ジャガイモを主原料とした糖分を使っています。もはや完璧な北海道のご当地飲料。北海道のスーパーでガラナの売り場を見れば、コーラと互角かまたはそれ以上の人気ということが一目瞭然で理解できます。北海道全域の主要スーパー、コンビニで取り扱っています。
根室名物が札幌でも受け継がれる 「オランダせんべい」
一見ワッフルに見えますが、味や食感はワッフルとは別物。食感はやわらかく、もっちりとしています。そして、不思議なネーミング「オランダせんべい」。何がオランダで、どのへんがせんべいなのか? 国内のごく一部には同じ名前の伝統的なお菓子が残っており、一説には長崎が発祥とも言われています。
北海道では根室の「端谷(はしや)菓子店」と札幌の「株式会社はしや」で作られています。昭和40(1965)年ごろ、根室にはオランダせんべい店が何軒かあり、当時南部せんべい店だった「端谷菓子店」も作り始めます。当初はパリパリのせんべいだったそうですが、やがてお客さんからの要望で現在の不思議なやわらかめになりました。
写真の「オランダせんべい」は、札幌の「はしや」さんの商品。根室店は、はしやの社長・端谷雅浩さんの実家です。のれん分けで、札幌に店を構えました。はしやのオランダせんべいは、焼きたては香ばしくジューシーなのだとか。さらにパリパリの堅焼きもあるそうで、ついに札幌で元のせんべいに先祖がえり的な変化も遂げています。
小麦粉、砂糖、黒糖、食物油、重曹が原料のシンプルな焼き菓子。「バターをのせてオーブンで温めたり、温めたオランダせんべいにアイスをのせて、朝食やおやつにも活用できます」と端谷社長からアレンジも教えてもらいました。はしやの店舗と道内の一部スーパーなど小売店で販売されています。
◆はしや
住所:札幌市西区山の手3条3-4-11
電話:011-642-5660
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜日
コップ欲しさのファン急増中「国稀カップ」
全国のローカルなカップ酒の中には、コレクションしたくなるような可愛らしいカップデザインのものも。国稀(くにまれ)酒造の創業者・本間泰蔵さんが北海道増毛町で酒造りを始めたのは、明治15(1882)年のこと。本業は呉服商でしたが、地元の需要に応えてニシン漁や海運業などを多角的に展開していました。そんな時、本州から運ばれ高価だった日本酒に着目し、自家醸造を開始しました。以後、最北の酒造としてその名を知られることになります。
ハレの日の酒でもある代表銘柄「国稀」にカップが登場したのは、今から40年以上前。とりわけ「上撰(じょうせん)国稀」は道内産の米「吟風」を使った、辛口系のアルコール度数が高い左党好み。辛口の酒の対局のような、かわいいカップに違和感を持つ地元の人々も少なくなかったそう。
そんな辛口の日本酒なのにフルーツ柄にしたのは「北限の果樹地帯」という地域のPRのためでした。名産のさくらんぼとりんごの2柄で、中身も国稀と上撰国稀の2種。地元、北海道増毛町ではラーメン店をはじめ、多くの飲食店で出される水のコップはこの、さくらんぼやりんご柄。家庭で子どもたちが使うコップも同じだとか。同社売店では国稀と上撰国稀を2柄で組み合わせた土産品が女性に人気で、地元スーパーではバラで購入が可能です。
◆国稀酒造
住所:増毛郡増毛町稲葉町1-17
電話:0164-53-1050
営業時間:9:00~17:00(酒造見学:9:00~16:30)
定休日:年末年始
首に巻かないでください。ただし食べると温まります「マフラー」
道北地方などでは細長い長方形の練り物のことを“マフラー”と呼び、親しんできました。どうやら、冬の防寒具・マフラーに似ているのが由来らしいのですが……(似ているでしょうか?)。冬を中心に、おでんダネとして定番化しています。
道北のスーパーでよく見るマフラーといえば、この堀川製です。同社が発祥というわけではなく、かつて小規模な練り物メーカーが点在した小樽や稚内周辺が、このマフラー発祥の地と考えられるそう。堀川ではマフラーを20年ほど前から製造しています。じつは堀川は、大正時代に新潟で創業した、全国に販路をもつ練り物メーカー。新潟を飛び出し、1960年代半ば、北海道に工場を建て、その工場で道内限定品を数多く製造するようになりました。マフラーもその一つです。
同社ではマフラーより若干短めの「てんぷら角」も販売。どちらも主にスケトウダラのすり身を揚げたものですが、マフラーはタマネギの甘みと風味が利いた道民好みの味わい。同社の月間販売数は6枚入りをおよそ3万7千パック! メーカーにとっては、懐も温まったりする、マフラーです。道内全域の一部スーパーで販売されています。
おわりに
ここに紹介した商品は、北海道のスーパーで買える商品のほんの一部です。この次は、あなたの番。旅先で出会うご当地スーパーで、見知らぬ商品を手に取ってみましょう。旅先のおやつに、夜食に、出張先の夜のつまみに、ちょっとしたお土産に。決して豪華ではない日常食ですが、楽しい食文化の体験は、毎日の生活をちょっとだけ豊かに彩ってくれると思うのです。
◆菅原佳己(すがわら よしみ)
スーパーマーケット研究家。家族の転勤で国内外の転居を繰り返すうちに、スーパーの魅力に気づき、埋もれた日常食の発掘などの研究をスタート。ご当地スーパーやご当地グルメブームの火付け役として、テレビや雑誌、新聞などで活躍している。著書は『日本全国ご当地スーパー掘り出しの逸品』(講談社)、『47都道府県 日本全国地元食図鑑』(平凡社)など多数。2019年に一般社団法人「全国ご当地スーパー協会」を設立し、新たなる活動を開始。