ニューヨーク・タイムズ紙「2024年に行くべき52カ所」に選ばれた我が故郷・山口市の掲載スポットを巡って魅力を再発見した旅

アメリカのニューヨーク・タイムズ電子版は毎年、その年に行くべき旅行先を紹介しています。今年1月、「2024年に行くべき52カ所」の3番目に山口県山口市が選出されました! でも、どんなスポットがあるのか、おいしいグルメはあるのか、詳しくない方もたくさんいるのではないでしょうか。山口市が故郷の旅色LIKESメンバー・ふみこさんが、市内を散策してきました。
目次
「2024年に行くべき52カ所」に選ばれた山口市
2024年1月9日、山口市がニューヨーク・タイムズ紙「2024年に行くべき52カ所」の3位に選ばれたと全国ニュースが流れる。「え、何もないのにどうして?」と驚いた。私の故郷であり、この地で高校までの時間を過ごした。母は今も、ここに住んでいる。ニュースのインタビューでも山口市民の反応は私と同じで、ピンときていない人ばかり。
世界各国のライターが推薦した都市の中から同紙の編集部が選ぶもので山口市を推薦したのは、作家/写真家のアメリカ人、クレイグ・モドさん。湯田温泉街や600年の歴史がある山口祇園祭、国宝・瑠璃光寺五重塔などを、その魅力として挙げている。山口市は室町時代、大内氏の24代・弘世(ひろよ)が京都を模した街並みをつくったことから、“西の京”と呼ばれている。京都が戦で荒れたため、多くの文化人をこの地に受け入れたのだ。2023年2月、帰省に合わせて、当時の街並みが残る大殿地区のうち、クレイグさんが紹介してくれたスポットを交えて巡ってみた。
五重塔だけではない香山公園の魅力

ボランティアガイドの泉さん。シートで覆われているのが五重塔
香山公園は、山口市民なら小学校の遠足で必ず行く、というほどなじみ深い場所。五重塔を見ながらお弁当を食べた遠い記憶を思い出した。園内にある国宝・瑠璃光寺五重塔は、大内文化※の最高傑作と言われていて、ニューヨーク・タイムズ紙でも紹介された。
公園の入口で出会った、ボランティアガイドの泉さん。山口弁で話す説明が面白すぎて、1時間以上も引き止めてしまった。大殿地区には五重塔だけでなく、大内氏→陶(すえ)氏→毛利氏→明治維新と、山口の歴史を感じる建築物がひしめき合っていることも魅力。
※室町時代の山口を中心とする文化を指す。大内氏第9代当主・大内弘世が京の都を模倣した街づくりを行ったのが発端
美しい五重塔の姿は見られないが……

改修前に撮った、紫陽花と檜皮葺の五重塔。緑に埋もれる感じが好き
五重塔は2026年まで大改修中で、今は残念ながら檜皮葺(ひわだぶき)の華麗な姿を見ることができない。しかし、2024年3月中には五重塔の側面が透明シートとなり、改修作業が見られる予定。さらに、園内は自然豊かなので、四季折々の姿を楽しめる。春は桜が咲くので、この時期にぜひ行ってもらいたい。
五重塔の内部は空洞になっており、心柱がぶら下がっている。心柱を見られる塔は少ないが、ここは下から覗けるのだとか。改修が終わったら見に行きたい。この心柱があることで、地震の揺れを吸収できる。東京スカイツリーにも使われる、日本伝統の建築技術だ。

五重塔が注目されがちだか、こちらが本堂
次は瑠璃光寺の本堂へ向かう。大内氏を滅ぼした曹洞宗・陶氏の菩提寺で、山号は保寧山(ほねいさん)と言う。

うぐいす張りの石畳
敷地内には毛利家墓所があり、そこに続くのがうぐいす張りの石畳。ここで手を叩くと石畳や石段に音が反響して、美しい音が聞こえてくる。遠足で来た時必死に手を叩き、足を鳴らした記憶がある。お試しあれ。
◆香山公園
住所:山口市香山町7-1
電話番号:083-934-6630(香山公園前観光案内所)
◆プロジェクションマッピング「昇華-shouka-大内文化」
開催日時:毎日18:00~21:00※3月31日まで
しっとりとした洞春寺(とうしゅんじ)を歩く

山門から本堂を望む
香山公園の隣にある洞春寺は、第12代当主・毛利元就の菩提寺。よく見ると、瓦には毛利家の家紋「長門三つ星(ながとみつぼし)」が書かれている。三つ星は「三本の矢」の教えに由来する。「1本の矢は折れやすいが、3本の矢は折れない。 3人が結束し、毛利家をよく守るように」と、毛利元就が3人の息子に説いたと言われる。Jリーグ・サンフレッチェ広島のチーム名は、全盛期に山口や広島等の中国地方を治めた戦国武将・毛利元就の「三本の矢」の故事から名づけられたものだ。

五重塔と同じ檜皮葺の屋根
改修中で五重塔の檜皮葺(ひわだぶき)が見られないが、洞春寺の門も同じく、檜皮葺の屋根。檜の皮を剥いで屋根を葺くそうだ。20cmぐらいの厚みがあり、水が溜まらないように、加えて皮が重ならないように工夫されている。これぞ匠の技。檜皮葺に使われている皮は、山口市内の山で確保しているとか。昔も今も市内の檜皮が使われている。
◆洞春寺
住所:山口県山口市水の上町5-27
電話番号:083-922-1028
シンプルながらも洗練された陶器が並ぶ小屋

しっとりとした風情のなかで生まれる焼き物たち
静けさを楽しみながら洞春寺の境内を歩いていると、ひっそりとたたずむ小屋がある。ここはニューヨーク・タイムズ紙でも紹介された水ノ上窯。お寺の納屋を工房兼ギャラリーとして改装し、2021年に窯開きしたそう。県内で多く焼かれている萩焼とは少し異なるシンプルな形と、料理映えが期待できる粉引っぽい色が特徴。5年前にここに窯を開かれたそう。洞春寺を訪れた際には、ぜひ立ち寄ってみては。
◆水ノ上窯
住所:山口県山口市水の上町5-27
電話番号:090-4659-4378
幕末の志士達が集まった枕流亭(ちんりゅうてい)へ

店内2階から改修中の五重塔を望む
再び香山公園の敷地内に戻り、かつて薩長同盟の密談が行われた枕流亭へ。幕末の英雄・木戸孝允や西郷隆盛たちが日本の未来を想い、どんな話をしたのだろう。歴史好きの妄想は止まらない。
◆枕流亭
住所:山口県山口市香山町1-14
電話番号:083-920-4111
営業時間:9:00~17:00
西の京の鴨川と言われる一の坂川

一の坂川で遭遇したアオサギ
香山公園を後にし、一の坂川へ向かう。ここは大内氏が京都の鴨川を模して、室町時代につくった場所。春は桜、夏は源氏蛍で山口市民を楽しませてくれる。散策を楽しみ、昔ながらの小さなカフェでコーヒーを楽しむのに最適のエリアだ。高校時代、近くの県立図書館で勉強した帰りに、付近を友人たちと自転車で激走していた。変わらない風景に、なぜだかほっとする。
川土手の桜の蕾はまだ固く、春を待っている。満開になると川沿いを歩きながら花見を楽しめる。川岸にアオサギが佇んでいるではないか。街と自然が融合している。これが山口市の魅力なのかも。
◆一の坂川
住所:山口県山口市後河原中後河原
幕末の志士に思いを馳せて碁盤の目の街並みを歩く

歴史の教科書に出ていた偉人達が歩いた道
一の坂から歩いて約5分。竪小路へ足を延ばしてみた。ここは京都の街を模して、碁盤の目になっている。地元の方曰く、23もの小路があるらしい。竪小路は萩〜山口〜三田尻へと続く萩往還だった場所。幕末時代、多くの志士たちが志を抱いてここを歩いたのだろう。彼らの熱い想いが国を変えたのだと思うと、単なる道も風景が違って見える。ボランティアガイドの泉さんによると、吉田松蔭は萩〜山口間を4~5時間で歩いたとか。そうだとすると健脚過ぎる。
いたる所に小路の名前のプレートが。小路には昔ながらの和菓子屋やおしゃれなカフェもあり、街歩きが楽しい。まだまだ行ってみたい場所はあるのだが、日没のため、今日はここまで。
山口の知られざるグルメを味わう

山口ならではのちょっと甘めの出汁でじっくり煮込んだおでん。昆布の旨みがふわっと広がる
日も暮れて、訪れたのはかんたろうおでん。ニューヨーク・タイムズ紙でも紹介された、カウンター7席の小さなおでん屋さん。ママがひとりで切り盛りされている。特製出汁はちょっと薄味だけど、コクのある山口らしい味。常連さんが多く、お客さん同士やママとの会話が、おでんをますますおいしくする。私は定番の大根、こんにゃくの他に、出汁が染みた豆腐を食べた。クレイグ・モドさんもカウンターでおでんと会話を楽しまれたそうで、その時に居合わせた常連さんが得意気に彼の名刺を見せてくれた。おでんをつつきながら、たわいもない会話が続く。あまりの居心地のよさに、気が付けば4時間近くも経っていた。母へのお土産におでんを買って、帰路に着いた。
◆かんたろうおでん
住所:山口県山口市中市町5-17
電話番号: 083-925-7775
おわりに
何気ないと風景と思っていたが、久しぶりに歩いてみると、風情ある街並みを混雑せずに楽しめて、新しいお店も活気づいているのが山口市の最大の魅力に思えてきた。外国人ゲストをガイドするチャンスがあれば、この日常をお伝えしたい。
◆この記事を書いたメンバー

ふみこさん(7期生)
山口県出身、神奈川県在住。 全国通訳案内士(英語)の資格があり、週末は東京を中心に外国人ゲストのガイドをしています。好きなものは料理、編み物、ウォーキング、カメラ。単なる観光よりも、地元の方と交流できる旅を楽しみたいと思っています。