「招き猫」とデザイン車両で乗客を呼び込む和歌山鐡道(2025年1月情報更新)
愛読書は時刻表。暇さえあればリュックひとつで旅に出かける私は、こよなく愛する鉄道を使い、温泉や絶景巡りをしています。今回はオリジナリティあふれる取り組みでお客さんを集める和歌山県のローカル鉄道をご紹介します。
目次

平野部でも紅葉が見ごろを迎える11月20日、わたしはJR和歌山駅にやってきました。和歌山の玄関というと南海電鉄和歌山市駅が思い浮かぶ方が多いと思うのですが、こちらはそれよりも3キロメートルほど東にあるJRの玄関口です。
一世を風靡した“ねこ駅長”

この駅からはJRだけではなく、今回ご紹介する和歌山電鐵も発車します。この路線は貴志川(きしがわ)線といい、JR和歌山駅がある和歌山市から紀の川市の貴志(きし)駅を結ぶ14.3キロメートルのローカル鉄道。一見どこにでもあるローカル私鉄ですが、オリジナリティあふれる取り組みで乗客数を維持している路線です。
JRと共同の改札を潜ると9番線のホームへ。「9」の横やホームに上がる階段に三毛猫の絵が描かれています。

描かれているのは「スーパー駅長たま」です。この路線はもとは南海電気鉄道が経営していましたが、2006年に岡山電気軌道に移管。その際、駅付近の猫小屋で飼われていた三毛猫を貴志駅の駅長として任命したのです。「招き猫」の意味を込めての取り組みでしたがこれがヒット。全国的に話題となり多くの観光客が乗りに来るようになりました。名実ともに「招き猫」的存在となったのです。
2015年にたまは死去しましたが、その遺志を継いで今は貴志駅では「ウルトラ駅長 ニタマ」が、途中の伊太祈曽(いだきそ)駅では「スーパー駅長 よんたま」が業務を担っています。その駅長たちとの出会いはまた後ほど。
オリジナリティあふれる“水戸岡デザイン”の列車で貴志駅へ

ホーム手前にある和歌山電鐵の改札で一日乗車券を購入。おとな800円で和歌山駅~貴志駅を往復するだけで元が取れてしまいます(和歌山駅~貴志駅は片道410円)。
これから乗るのは「いちご電車」。ホームには四角いいちごの描かれたかわいらしい列車が止まっています。和歌山電鐵に移管後、リニューアルされた水戸岡デザイン第1弾の電車です。貴志駅のある周辺がいちごの産地であることからデザインされました。これが和歌山電鐵のもうひとつの特徴です。JR九州の「或る列車」や「ななつ星」など数々の列車をデザインする工業デザイナーの水戸岡鋭二さんが和歌山電鐵でもデザインを担当。ネコ駅長だけではなく水戸岡デザインでも話題を獲得し、鉄道ファンたちの目を惹きつけています。
車内は比較的シンプルなロングシートの列車。
よく見るとモケットは一面いちご柄です。
ミニテーブルの用意された簡易の団欒席も用意されています。
スーパー駅長「たま」一色の貴志駅
終点の貴志駅までは約32分で到着。ここでいよいよ、「たまⅡ世駅長ニタマ」とご対面です!
「ご利用ありがとうございます♪」よりは「よう来たな。」という感じ。
ガラス越しにお出迎えいただけました。気分屋でなかなかこっちを向いていただけないこともありますが、気長に待ちましょう。なお「出社予定」は和歌山電鐵のホームページで確認ができます。
駅舎内にはかつてのねこ駅長「たま」の写真、そして経歴の書かれたケースが展示されています。今の肩書は名誉永久駅長、すごい……。
構内にはグッズ販売店やカフェも併設。さまざまな「たまグッズ」が販売されています。

わたしもひとつグッズを買いました、缶バッジ。リュックサックにつけているのでもし旅先で気がついたら声をかけてくださいね。
貴志駅のデザインも「たま」。貴志駅と書かれたプレートより「TAMA」の方が大きいので「ん? たま駅? 」と勘違いしそうです。
ホームにはなんと神社まであります。2015年に初代「たま駅長」を祀って建てられた、その名も「たま大明神」。亡きあとも和歌山電鐵の繁栄を貴志駅で静かに見守っています。
和歌山県といえば! うめ星電車で和歌山方面へ
梅干しカラーの「うめ星電車」。
さて、駅を回っているうちに貴志駅に和歌山行の電車が入ってきました。次の電車は「うめ星電車」。和歌山県の紀州地方は南高梅(なんこううめ)が有名です。こちらも水戸岡さんがデザインした実に和歌山らしいデザインとなっています。

ロングシートの車内は床面をはじめ窓枠の切子、背もたれにもふんだんに使った木の香りが広がる贅沢な空間。
座面も天井も梅の葉が茂り、花が咲き誇る様子が描かれています。かつてやせた土地だった紀州に梅が持ち込まれ、繁栄をもたらしたといいます。その繁栄を和歌山電鐵にも、という願いが込められています。
ローカル線の普通列車ですが車内にはショーケースがあり、地域の産品に加え「たまグッズ」も紹介されています。ここでゆっくり見た「たまグッズ」は貴志駅で購入可能です。
伊太祈曽駅で紀伊一ノ宮を訪ねる
うめ星電車を途中の伊太祈曽駅(いだきそえき)で下車。ここで少し観光することにしました。この駅には和歌山電鐵の車両基地があり、休憩している列車を眺めることができます。
2018年にデビューしたチャギントン列車。電車を擬人化したアニメ「チャギントン」のラッピング車両です。親会社の岡山電気軌道とのタイアップで運行されています。この日は朝晩のみの運転で外観のみ撮影しました。
こちらも「おう、よう来たな」といった感じ。
駅構内のガラス室内で「スーパー駅長 よんたま」駅長が業務をされていました。上の方から乗客を見下ろし安全の確認(?)をしていただいています。
駅から徒歩約5分ほどで伊太祁曾(いたきそ)神社に到着しました。七五三参りもピークを過ぎたようでひっそりとしていますが、由緒正しい紀伊の一ノ宮。五十猛命(いたけるのみこと)という木の神が祀られています。
「紀伊国」はもとは「木の国」の記され熊野をはじめとして木材の産出で栄えた土地でした。それだけに木の神を一ノ宮に祀るのは自然な成り行きだったのかもしれません。

これをチェーンソーで作ったとは……!
毎年その年の干支が拝殿に飾られていますが、2022年に訪れた時は2023年の干支も準備されていました。世界チャンピオン城所啓二氏のチェーンソーカービングの作品なんだそうです。さすが木の国。なお、沿線の日前宮(にちぜんぐう)駅からは別の一ノ宮である日前宮にお参りすることもできます。
これぞ「たま」の集大成「たま電車ミュージアム」
伊太祈曽駅に戻り、最後に乗るのは「たま電車ミュージアム号」。2021年デビューの最も新しい列車です。



黒を基調とした車内はあっちを見ても「たま」、こっちをみても「たま」。車内全体「たま」だらけ。写真とともに様々なポーズの絵柄が施されています。これはまさに電車を超えた「走るミュージアム」です。
かつて走っていた「おもちゃ電車」のガチャガチャはこちらへ。落書きができるキッズスペースもあってお子様も退屈しません。この電車は「これまでにないネコ電車をつくろう」というコンセプトのもとクラウドファンディングで集められた資金で生まれた列車です。和歌山電鐵が多くの地元の方や鉄道ファンに愛されてきたからこそ改装するだけの資金が集められたのだと思います。

貴公子のような「たま駅長」がお客様をお出迎え。
地方私鉄の経営環境は決してよくありません。「たま」ブームを起こした和歌山電鐵でも厳しい経営環境が続きます。それでもこのように知恵を絞って今日も集客に努めています。ユニークな車両を次々と生み出す和歌山電鐵。そして「ネコ駅長」たちに会いにぜひ和歌山にお越しください。
◆ウルトラ駅長 ニタマ
勤務場所:貴志駅
勤務時間:10:00~16:00
公休日:水曜日・木曜日
◆スーパー駅長 よんたま
勤務場所:伊太祈曽駅および貴志駅
勤務時間:10:00~16:00
公休日:月曜日・金曜日
※詳しくは公式ホームページをご確認ください。