黒と白で表現された世界。ヴァロットンの木版画に触れる旅
こんにちは、大石絵理です。クリスマスも近づき、街はイルミネーションでワクワクする季節となりましたね。今年は昨年と比較してお出かけしやすくなり、仕事も少しずつ対面でできるようになってきました。みなさんはどんな一年を過ごしましたか? 今年最後のアート旅は、東京の丸の内にある三菱一号館美術館で開催中の「ヴァロットン―黒と白」展を選びました。ヴァロットンが得意とした木版画をご紹介します。
目次
パリで活躍した画家、ヴァロットンとは?
まずはヴァロットンの紹介をします。本名はフェリックス・ヴァロットン。1865年にスイスで誕生し、19世紀末のパリで活躍したナビ派の画家です。展覧会のタイトルにも入っているとおり、“黒と白”のみで表現される木版画で名声を得ました。
三菱一号館美術館にはヴァロットンの作品が数多く貯蔵されており、今回は<アンティミテ>、<楽器>、<万博博覧会>、<これが戦争だ!>など、貴重な作品が180点ほど公開されます。展覧会はチャプター1~5で構成され、初めて木版画に着手したころから順に、
①パリの街を観察し作品にしていた時代
②ナビ派に仲間入りした時代
③ガブリエル・ロドリーグ=アンリークと結婚してからの変化の時代
に触れています。では、展示内容についてご紹介していきます。
パリの街を皮肉とユーモアで表現したヴァロットンの作品
スイスで生まれ育ったヴァロットンにとってパリは華やかな街であったと同時に、驚きと発見に満ちていました。パリの街を観察することで、皮肉やユーモアを込めた作品を数多く生み出します。展覧会で特に象徴的だったテーマを3つに絞り、作品に込められた想いを覗いてみましょう。
社会の暗部が露呈した“死”がテーマの作品
パリで社会の暗部に焦点を当てたヴァロットンは、死をテーマにした作品を多数生み出しました。“死”というテーマは画家の中でもよく扱われますが、ナビ派の作家には珍しいよう。埋葬や交通事故という出来事を取り上げることもあれば、処刑や暗殺など非日常的な瞬間をドラマティックに描くことも。なかでも『自殺』においては、木版画の重々しい陰鬱さを効果的に演出しています。
最先端の“ファッション”に身を包んだ女性たち
流行に敏感だったヴァロットンは、同時期に活躍したナビ派の作家と同様に最先端のファッションを作品に取り入れています。作品に出てくる人物の服装はドット柄や格子柄、アラベスク模様など、それぞれに違いを出していました。パリの人物を細かく観察していたヴァロットンらしさが出ていますね。装飾性を高めるための要素として取り入れたとも言われています。こうした特徴はナビ派の作品で見られることが多いようです。
“子ども”を主役にした作品も
18世紀以降、ロココ時代のシャルダンを始めとした画家たちは、子どもの姿を作品の中に大きく取り上げました。こうした近代以降の西欧文化変容の大きな流れの中でナビ派の画家たちも自然と、子どもの自由な姿にインスピレーションされたと言われています。もちろん、ヴァロットンの作品にも子どもをテーマにした作品が生み出されていくことになります。西洋絵画の多くは女性や風景、花などをテーマにした作品が多かったので、子どもが主役になる作品は珍しいと感じました。
壁に投影されるスライドショーにも注目
会場では作品を壁に投影してスライドショーとして紹介している様子も。雑誌挿絵「罪と罰」は作品に一言添えられているので、こちらにも注目してみてください。ブラックユーモアに溢れていて、見ごたえ抜群です。他、今回は撮影できなかったコレクションの展示や昔のフランス雑誌の表紙などがたくさんあります。今回は1800年代の作品をご紹介しましたが、今の時代に見ても色褪せないかっこよさがあります。違う時代や人間が見てもそれぞれの視点がある。私がアート好きな理由の一つです。
会場の三菱一号館美術館周辺はデートにもおすすめ
会場の三菱一号館美術館は建物がクラシックでとても素敵な場所です。今の時期は美術館周辺がライトアップされているので本当に綺麗ですし、デートにもおすすめです。ぜひこの機会にアートに触れて、一年間の疲れを癒してみてはいかがでしょうか。
今年もありがとうございました。よいお年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願い致します。
◆ヴァロットン―黒と白
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都中央区丸の内2-6-2
会期:2022年10月29日(土)〜2023年1月29日(日)
休館日:月曜日、12月31日、1月1日 ※但し、10月31日、11月28日、12月26日、1月2日、1月9日は開館
開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで。金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで)
入場料:一般1,900円、高校・大学生1,000円、小・中学生無料