タベサキ
愛知の名産品のひとつである八丁味噌。
そのコク深い味と栄養素は、
江戸幕府を築いた徳川家康も好んだといわれています。
いまの日本の食卓に欠かせない
味噌文化が根づいた歴史と風土を紐解きましょう。
Text:岡井祥子(P.M.Aトライアングル)
愛知県の中央部に位置する岡崎市は、八丁味噌の名産地として知られています。徳川家康が生まれた岡崎城から「西に八丁の距離」に位置する八丁村(現・八帖町)で造られていたことから、八丁味噌と呼ばれるようになりました。
夏は高温多湿で食物の酸敗が起こりやすかった岡崎市では、米味噌や麦味噌よりも、高温に耐え長期保存ができる豆味噌が常食とされてきました。「摺ってよし、摺らず猶よし、生でよし、煮れば極よし、焼いて又よし」といわれた八丁味噌は、加熱しても香りがほとんど損なわれることがありません。食材の旨味を高めるため、調理の幅も広く、食卓に欠かせない日常食として根付いてきました。
食文化としてだけではなく、産業としても味噌作りが発展したのは、江戸時代から原料の調達、醸造の環境、製品の運搬の面で最適な土地だったことが大きな理由です。岡崎市を南北に行き交う矢作川の船着き場では、舟運で運ばれてくる大豆の入手に適し、東西に横断する旧東海道にあった岡崎宿では塩の専売所が置かれるなど、味噌の原料を入手しやすく、さらに矢作川の良質な湧き水や温暖な気候もあり、多くの気候的・立地的要因で味噌作りが根付き発展していきました。江戸幕府を築いた徳川家康もこの八丁味噌の原型ともいうべき豆味噌を好み、味噌作り産業を保護していたといいます。
八丁味噌は、江戸時代から今もなお続く伝統製法を守り、大豆と塩のみで造られています。自然環境に任せ、二夏二冬の醸造期間を設けると、色が濃く、少々の酸味と渋みのある濃厚な旨味の味噌ができます。歴史と風土が生んだ八丁味噌。その老舗である「カクキュー八丁味噌」をはじめ、愛知が育んだ味噌文化を覗いてみましょう。
八丁味噌は、岡崎市にある2軒の味噌蔵が江戸時代初期から変わらない伝統的な製法で作る豆味噌です。旧東海道を挟んで位置する、創業1337年の「まるや八丁味噌」と、創業1645年の「カクキュー八丁味噌」が、何百年もの間その伝統を守ってきました。
大豆そのものを麹化し、塩とごく少量の水だけを加えて2年以上熟成させる八丁味噌は、ほかの味噌に比べて保存性が高く、携帯するのに適していたため、戦国時代には三河武士の兵糧として重用されていました。その後、徳川家康の関東移封を機に、三河譜代の大名や旗本、そして参勤交代やお伊勢参りといった旧東海道を行き交う人々を通じて広く全国に知れ渡り、多くの人々に親しまれるようになりました。
そんな岡崎城下の名産として知れ渡っていった八丁味噌の蔵元のひとつ、「カクキュー八丁味噌」は、いまでも伝統の製法を守った味噌作りをしているのはもちろん、併設の施設には、史料館や売店、味噌グルメが楽しめる食事処などが並んでいます。ほかにも、味噌蔵の工場見学を体験でき、伝統産業を実際に見て味わうことのできる貴重な場となっているのです。
0564-21-1355(工場見学・売店)
売店営業時間:9:00~17:00、見学受付時間10:00~16:00(所要時間約30分)※土・日曜・祝日の見学受付時間は9:30~16:00
年末年始
電車:名鉄名古屋本線岡崎公園前駅から徒歩約5分、車:東名岡崎IC、豊田東ICより約15分
有(40台)
かつて岡崎市は、この地域で作られていた矢作大豆に、花こう岩質の地盤からは良質の天然水が湧き出し、吉良地方は塩田があり塩が入手しやすく、味噌を作る上で欠かせない原料がすべて揃った好立地でした。三河湾に通じる矢作川沿いの温暖なこの土地を徳川家康は愛し、幕府ができてからも八丁味噌の原型ともいうべき豆味噌を兵糧として保護するなど重用していたといいます。その後、江戸に移った家康は、大勢の家臣たちの要望もあり、大量の豆味噌を江戸まで運ぶようになりました。現在ある2軒の味噌蔵は、当時舟運での荷の積み下ろしが便利なように、矢作川の左岸に近くの旧東海道に面して並んでいるのです。
また、矢作大豆以外にも、この地域では江戸時代ではすでに大豆の仕入れ先が全国に広がっていました。特に地元では矢作川流域が多いのは当然ですが、上州の大豆産地で有名な、現在の吾妻町、長野原町、嬬恋村、中之条町などの吾妻川流域からも大豆を仕入れていました。こうして考えると八丁味噌は、仕入れの物流と卸の舟運で全国の港とつながり、発展させたと考えられます。江戸時代から八丁味噌の名が全国に広まっていたのは、運河が繋げた産業の発展が理由だったのです。
徳川家康の故郷として知られる岡崎城。美しい自然が溢れるこの城の麓で、創業120年を超える老舗「八千代本店」は、郷土の食材にこわだった和食を提供しています。
名物は、岡崎伝統の八丁味噌をたっぷり使用した田楽定食。備長炭を使用し、創業から受け継いだ技術で焼き上げた「木の芽田楽」は、ここでしか味わえないとあって遠方からのファンも多いといいます。なめらかな舌触りの柔らかい豆腐を覆う八丁味噌は、独特の深いコクと少しの苦味を感じる上品な味。定食にはなめし(ご飯に乾燥させた大根の葉を和えたもの)と吸い物と漬物が付いていますが、なめしのシンプルな塩気と吸い物は、濃いめの味の田楽をバランスよく引き立ててくれます。ほかにも地元の食材を使った、秀逸な懐石料理も人気です。
0564-22-0267
12:00~20:00 ※ラストオーダー18:00
火曜 ※祝日・桜祭り期間は営業
テーブル16席、座敷48席
1500円~
電車:愛知環状鉄道線中岡崎駅より徒歩約10分、名鉄名古屋本線岡崎公園前駅より徒歩約10分
なし
どて焼きは、どて煮、味噌おでんとも呼ばれ、八丁味噌を使った名古屋めしの代表メニューのひとつです。鉄板の上に八丁味噌で土手を作って中に水を入れ、牛スジや大根などを焦がしながら煮込むことから由来されています。
昭和24年創業の名古屋市中区栄にある「島正」のどて焼きは、見た目の色に反して味はそこまで濃くはなく、味噌を焼いた香ばしい香りが食欲をそそると昔から多くの地元客に愛されています。使用している八丁味噌は実は塩分が少なく、丁寧に煮込むことで甘みと辛みと旨味があわさり、まろやかなコクが際立つのが特徴。大根は下ごしらえをしてから、10日もかけて味をしみこませるそう。八丁味噌の特徴を活かし、さらには具材へもしっかりとこだわっているのです。またほかにも、豆腐やコンニャク、たまごなどの具材を大鍋でぐつぐつ煮込み八丁味噌の旨味を染み込ませます。とろけるような牛スジは別鍋でトロトロになるまで下ごしらえ。
お酒のアテにはもちろん好相性ですが、白米との相性も抜群。ご飯に「どて(牛スジ)」をかけた「どて飯」も地元客なら誰もが知る逸品です。最後の締めまで味噌を堪能してみましょう。
愛知県名古屋市中区栄2-1-19
17:00~22:00
土・日曜、祝日
カウンター20席 ※3階に1日1組20席の宴会席
2,000円程度
電車:地下鉄東山線伏見駅より徒歩約3分
なし
家庭には欠かせない調味料、味噌には、岡崎市が発祥の豆の麹で作った八丁味噌のほか、米麹で発酵させる信州味噌や西京味噌など、その土地土地によってさまざまな種類があります。愛知県をはじめとした東海地方では、八丁味噌のほか、赤だし味噌と呼ばれる、豆味噌に米味噌や調味料などを加えた調合味噌も、一般家庭でよく使われている味噌になります。そんな赤味噌やさまざまな味噌ダレ製造販売している「はと屋」が運営する「みそぱーく」は、味噌や醤油などの醸造品を「見る」「買う」「体験する」「勉強する」、味噌のテーマパークとして人気です。
文久元(1861)年創業の醸造元「はと屋」に隣接しているので、味噌蔵の見学や、醸造文化の歴史を学べるギャラリー、味噌と乾燥野菜などを合わせ、オリジナルの味噌汁ができる、みそまるの体験教室など見どころ充実。直営店で入手できる美味しい発酵食品や調味料は、お土産としてもおすすめです。
0563-56-7373
見学時間:10:00~15:00、直売店営業時間:10:00~17:00、バー:18:00~24:00
年末年始、お盆 ※作業により見学不可な日あり
電車:名鉄名古屋本線西尾駅から徒歩約7分、車:国道23号線西尾東ICから約7分
約30台
ミツカン創業の地、半田市にあるミツカンミュージアムは、ミツカングループの歩んできた酢作りの歴史や食文化の魅力にふれ、未来につなげる施設として設立されました。もともと半田市がある知多半島は、江戸時代から酒や醤油、酢などの醸造産業が盛んでした。江戸時代後期の1804年に創業したミツカンも醸造産業の発展を後押しした蔵元のひとつです。こちらでは、江戸時代の酢作りや現在の醸造の様子が学べ、半田を流れる運河や街並みの懐かしい写真なども展示しています。また「味ぽんスタジオ」では、撮影した自身の写真をラベルとして貼って持ち帰れるマイポン酢作りも可能。売店もあるので、高級粕酢「三ツ判山吹」や、千夜寝かせたコク深い味わいの赤酢「千夜」など、ここでしか手に入らない限定品のお酢もチェックしてみてください。
0569-24-5111
9:30~17:00
大人300円、中高生200円、小学生100円
電車:JR武豊線半田駅より徒歩約3分
第一駐車場約40台、第二駐車場約100台
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