「読書は1人の世界で完結するが、その世界を体験しに旅に出ることで開いていく」。文学旅行代表・鹿子沢ヒコーキさんによる文学旅のすすめ
旅色LIKESレポーターのERIです。1月23日(火)に専門プランナーが手作りの旅行プランを紹介するメディア「旅色の旅行プラン」にて活躍中のプランナーさんによる講座が初開催されました。今回の講師は「文学旅」を提案されているプランナー・鹿子沢(かのこざわ)ヒコーキさん。文学旅のおもしろさや、魅力を教えていただきました。
目次
鹿子沢ヒコーキさん
NPO法人文学旅行の代表で、小説と旅行を融合して地域活性化を応援する編集ジャーナリスト。「人は物語で出来ている」が持論。
旅色の旅行プラン・旅プランナーとは
国内のおすすめ旅行プランを掲載しており、2,100件を超える掲載プランはすべて手づくり! 旅のお悩み解決をサポートする「旅色コンシェルジュ」や旅の専門プランナーがそれぞれに特化した旅スタイルで季節に沿ったプランを紹介しています。
今回の講師は、この旅色のプランページで「文学旅」を連載している鹿子沢ヒコーキさん。1月23日(火)の19:30から1時間、オンラインで開催されました。
鹿子沢さんが文学旅にハマったきっかけと、だれもが楽しめる文学旅の魅力とは
鹿子沢さんが初めて文学旅をしたのは高校生の頃。昭和に活躍し、第1回芥川賞候補にも選ばれたことがある作家・高見順の著作『いやな感じ』(1963年)に感銘したことがきっかけで、高見さんの著書を読み漁り始めたそう(ちなみに、文学旅だけでなく、出版業界に入るきっかけにもなるくらい。鹿子沢さんにとって重要な出会いだったとか)。読み進める中で見つけた『如何なる星の下に』(1940年)に登場する浅草のお好み焼き店「染太郎」に実際に行き、物語に登場する「三原焼」を食べたことで文学旅にハマったそう。
実は、この講座の前、文学旅には少し固く、難しいイメージがあったんです。しかし、高見順という文学者がきっかけで旅をし始めた鹿子沢さんはこう教えてくれました。
「小説じゃなくても、漫画やアニメ、映画などであれば誰にとっても『この一冊(一本)』と思うものがあるのではないでしょうか。その聖地やロケ地、映像作品であれば画角や構図などをたどる聖地巡礼も文学をたどることと同じなんです」
「文学旅は『文学』でなくてもいいんです。(文学旅を)広くとらえて出かけてみると新しい事実を発見したり、人と出会ったり、さまざまな体験ができると思います。なので、旅行にいって色んな得るもの・学びを獲得してもらえたらと思い、文学旅を勧めています」
実際に鹿子沢さんが作った旅行プランを見ると、新海誠監督の『すずめの戸締り』(2022年)にちなんだものもあり、これならわたしでも楽しめそう! とイメージがかなり変わりました。こんな旅なら、本を読まないわたしでも楽しめそうです。
作者の気持ち・作品の裏側を知り、心を震わせる 鹿子沢さんのおすすめ文学プラン2選
講座内ではこれまで鹿子沢さんが作った旅プランを2つ紹介してもらいました。旅プランで紹介されているスポットには、プランナーによる「おすすめポイント」があるのですが、文学の情報だけでなく、だれもがよく知る人物に関わる場所やちょっとしたエピソードが添えられていて、紹介いただいたプラン以外にも興味深いものがいくつもありました。
1.湯布院・日田へ母娘旅。原田マハ「星がひとつほしいとの祈り」
数々の賞を受賞している作家・原田マハの著書で7つの短編が入った『星がひとつほしいとの祈り』(2010年実業之日本社/2013年実業之日本社文庫)の中にある『夜明けまで』の舞台を巡る旅です。原田さん自身も非常に旅好きだそうで、著書も旅情を誘うものが多く、文学旅行として「推し」なのだそう。物語に登場する「夜明駅」や「小鹿田焼(おんたやき)の里」を周るのですが、鹿子沢さん自身も訪れた際に「(周るスポットが)小説家の心を揺さぶる場所だよなぁ」と震える思いをしたそう。物語に描かれている場所を訪ねることで焼き物の歴史に知ったり、登場人物の思いに触れたりできるおすすめのプランだそうです。
2.和歌山・太地町で捕鯨史を体感。『深重の海』『鯨分限』の舞台へ
太地町(たいじちょう)は約400年前に捕鯨が始まったとされる「くじらの町」です。鹿子沢さんの旅プランにあるように、くじらや捕鯨に関するスポットがたくさんあります。そんな太地町で1878年に起きた「大背美流れ(おおせみながれ)」と呼ばれる事件をテーマにしているのが、津本陽著の『深重(しんじゅう)の海』(1978年)と伊東潤著の『鯨分限(くじらぶげん)』(2015年)です。この事件は子連れのセミクジラを追って沖へ出た船団が遭難し、100名以上が行方不明となった、というもの。この未曽有の大事件で遭難した捕鯨集団「太地鯨組」の棟梁がどちらの作品にも登場するのですが、一方は棟梁を悪とし、もう一方は善としてとらえている、という内容なのだとか。同じ題材なのに違った切り口をとっているのがおもしろいですし、くじらと人間の関係性と歴史、太地町の過去と今が知れるプランです。
講座を終えて
講座内で文学旅をするうえで気をつけねばならないことを教えてくれました。
「文学旅行を個人の趣味として楽しむのであれば、文学そのもの・文学の読み方が自由なのと同じで、基本的には自由にしてよいです。ですが、その旅に関するレポート記事やSNS投稿などで発信する際に絶対に注意しないといけないことが二つあります。『ネタバレをしない』『著作権を侵さない』ことです。この二つを守るということは、作品と作者、版元である出版社へのリスペクトを表すことになるのです。ここを守れないと文学旅は楽しめません」
作者だけでなく、作品に関わった全ての人への敬意をないがしろにしてはいけない、ということだとわたしは受け取りました。
また、普段からあまり本を読まないのですが、講座を終えて文学旅という旅スタイルについていろいろと想像してみました。ストーリーに出てきた場所を実際に目の当たりにしたり、物語のシチュエーションを真似したりする旅スタイル……。そう考えると、ちょっとドキドキ、ワクワクしてきますよね。目的なく旅するよりも、数倍楽しくなるかもしれないな、と感じました。本を目的に旅をする、それとも、旅を目的に本を読むでもいいかも! 読書は1人の世界で完結しますが、その世界を体験しに旅に出ることで開いていきます。誰かと旅にでるとより開いていきますよ。物語に入り込むようにロマンチックな旅がしたい。と思った講座でした。
鹿子沢ヒコーキさん、素敵な旅の提案をありがとうございました。