建築史家・倉方俊輔先生に教わる建築旅で新たな大阪を知った日
旅色LIKESのイベントレポーター・ERIが体験や学びを発信します。6月3日に行われた「建築史家・倉方俊輔さんとめぐる建築まちあるき旅in大阪」に参加しました倉方先生に解説いただきながら淀屋橋・中之島周辺の建築物を巡りあるくというもの。今までは、大阪城と“くいだおれ”などの食文化のみを楽しんできましたが、私の知らなかった優美な大阪を知る機会になりました。新しい旅の始まりの予感。
目次
講師は、建築史家で大阪公立大学教授もされている倉方俊輔さん。建築家とは、設計などを行う人ですが、倉方さんのような建築史家とは、建築の研究をしながら魅力や可能性を広める活動をしている人のことです。
今回のイベントは、大阪で開催され淀屋橋から中之島、北浜エリアの建築を倉方さんに解説いただきながら歩くというものでした。いつもは「素敵だな、きれいだな」となんとなく眺めることしかしてきませんでいたが、建築のデザインや手法、建物にまつわる物語まで知ると、どんどんと興味が湧いてきました。実際にイベントで巡った建築をいくつかまとめました。
豪商淀屋のゆかりの橋「淀屋橋」
淀屋橋から講義スタート。少し遅れて参加した私がついたときには、先生が橋の上で熱弁を振るっていました。淀屋橋は江戸時代の豪商淀屋が、土佐堀川を使って米市に米を運ぶために自費で作った橋で、淀屋橋と呼ばれるようになりました。橋灯が特徴的なデザインは、都市計画による一般公募で決まり、アーチ橋は見た目がとても魅力的です。都市開発においてそのように造っているのだと思いますが、現代のまちの景色のなかでも違和感がないのは素晴らしいと思いました。コンクリート橋ではめずらしい重要文化財に指定されているそうです。
日本の近代建築の父・辰野金吾「日本銀行大阪支店」
淀屋橋の近くにある日本銀行大阪支店。見覚えがある建物は、旧紙幣の裏に印刷されていたものでした。だいぶ大人の方しかわからないと思いますが……。東京にある日銀本店と同じく辰野金吾が設計しました。日本における最初期の建築家の一人です。また東京駅に見られる赤レンガを白い花崗岩で縁どるデザインは「辰野式」とよばれています。取り壊される話しもありましたが、現在は旧館として保存され、予約をすれば内部見学もできます。本館を真上から見ると「円」という字のような形をしていますが、建物ができた当時の円は「圓」という表記だったため偶然でしょう、という豆知識も教えてもらいました。
文化的な日本を世界にアピール「大阪中之島図書館」
次に訪れたのは「大阪中之島図書館」。日本銀行とは違ったデザインの建物で、とてもかっこいいです。辰野金吾の弟子、野口孫一(まごいち)の設計で作られました。外観のギリシャ神殿のような立派な柱と中央の扉上のアーチ型の窓が特徴。アーチ型というのはギリシャ神殿にはみられず、単に石を積むよりもアーチ状に積むことで強度が増すため取り入れており、デザイン性だけではなく、長く残すための工夫もされているのだとを知りました。倉方先生の「中に入ってみましょう」との言葉に少し驚いてしまった私。こんなに立派な建物の中に気安く入れるとは思わなかったからです。でもここは図書館、今も大切に残されている建物の内部もしっかりと見ることができるなんて贅沢だなと感じました。
エントランスに足を踏み入れると、思わず「わぁ! 」と声が出ました。外観からは想像できなかった内装です。名映画で見たようなエントランスに一瞬で心奪われました。なんてステキなデザイン……。本がまだ貴重だった時代、図書館というのは博物館のようなもので、日本に知見があることや優秀な人材が多いことを海外へアピールする目的もあったのだと教わりました。
一般市民の空間「大阪市中央公会堂」
中之島図書館の隣には「大阪市中央公会堂」。株式仲買人・岩本栄之助の寄付により建てられました。新紙幣の顔となる渋沢栄一の渡米実業団に参加し、アメリカのコンサートホール「カーネギー・ホール」の建設に向け富豪たちの寄付による慈善事業に感銘を受け、帰国後100万円(当時の数十億円)を寄付。寄付を受けて大阪市から建築の相談をされたのが辰野金吾でした。その当時としてはまだ珍しい弟子たちのコンペによって岡田信一郎のデザイン案に決定。デビュー作となったそうです。弟子たちの描いたデザイン案は資料館で見ることができます。
残念ながら寄付をした岩本栄之助は、公会堂の完成をまたずに、株で大損失を受け、39歳の若さで自ら命を断ってしまったという話も教えてもらいました。建築は思い出の場所となる、岩本龍之介は寄付をしたからその名が残ったのではないか、と言っていました。誰もが使うことができる公会堂は、カフェが併設されているほか、結婚式やイベントなどでも使われ、市民に慕われている場所です。普段入ることのできない貴賓室で結婚式ができるなんて素敵ですね。装飾がとにかく素晴らしく、庶民的な建物と説明を受けましたが、わたしにはそうとは思えないほど豪華でした。事前予約をすると特別室を見学できるガイドツアーに参加することができます。
おわりに
私は大阪の食文化や、新世界・道頓堀の大きな看板、お笑いなど“愉快なまち”という一部分しか見えていませんでした。しかし多くの素晴らしい建築物があり、大大阪(だいおおさか)時代に世界を見据えた都市を造るために建築に携わった人たちから思いを繋ぎ、民のために発展したまちであることを知りました。2時間半ほどのイベントでしたが、大阪のイメージがガラリと変わる時間でした。また、建物に纏わる物語を知るという新しい旅スタイルを体験し「ちゃんと考えると旅はおもしろくなる」という旅色LIKESのテーマを実感できた気がします。今も世界に通用する新しい都市に生まれ変わろうと、万博開催に向けて、再開発の進む大阪を今後も深掘りしたくなりました。
倉方先生、有意義で楽しいイベントをありがとうございました。